高等教育と生産性・イノベーション

執筆者 乾 友彦 (学習院大学)/池田 雄哉 (科学技術・学術政策研究所)/柿埜 真吾 (学習院大学)
発行日/NO. 2021年4月  21-P-009
研究プロジェクト 東アジア産業生産性
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概要

本稿では、高等教育を通じた人的資本の蓄積が労働者の生産性に与えた効果に関する既存研究のサーベイ及び企業における博士号保持者の存在がイノベーション活動に与えた影響について検討した。日本の大学院卒の賃金プレミアムを測定した研究によると、大学院卒の賃金プレミアムは20~30%程度であった。一方、米英の既存研究では、大学院卒の賃金プレミアムは10~30%と推定されており、日本の水準との差異は小さい。このことより、日本の大学院教育が人的資本の蓄積に伴う生産性の向上に一定程度貢献している可能性が示唆された。

博士号保持者は知識吸収能力が高く、企業のイノベーション活動のパフォーマンスを高める効果を持つことが期待される。博士号保持者が企業のイノベーション活動に与える影響について、組織管理の方法も考慮しつつ分析した。その結果、博士号保持者が在籍している企業はそれ以外の企業に比べて、プロダクト・イノベーション実現率が4.5%ポイント高く、プロセス・イノベーション実現率については3.8%ポイント高いことが分かった。また、分析結果から組織管理がイノベーション実現に正の効果を持つことも明らかになった。