【WTOパネル・上級委員会報告書解説㉟】韓国-放射性核種事件(DS495)-放射能汚染を理由とした通商規制に関するSPS協定上の争点-

執筆者 邵 洪範 (東京大学)
発行日/NO. 2020年11月  20-P-030
研究プロジェクト 現代国際通商・投資システムの総合的研究(第V期)
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概要

本件は、2011年3月11日、東日本大震災によって発生した福島第1原子力発電所事故後、放射能汚染の懸念に対処するという理由の下で韓国が採用し、維持していた日本産水産物に対する輸入禁止措置及び放射性核種の追加的検査要件がSPS協定に違反するとして、日本がそのSPS協定整合性を問題視した事案である。本件は、放射性核種という汚染物質を対象としたSPS措置がWTO紛争で取り扱われた最初の事例であり、放射能汚染の一般的性質、本件の背景となった事故の特殊性及び放射性核種と健康リスクの相互関係などを含む、様々な技術的・科学的要素がWTO法の文脈で検討される機会となった。本件では、韓国の措置がSPS協定2条3項(無差別原則)、5条6項(貿易制限性)、7条・附属書B(透明性の確保)及び8条・附属書C(管理、検査及び承認の手続)の規定に違反するかどうかが主要争点となり、特に、5条6項の解釈・適用におけるALOPの決定の問題、2条3項の解釈・適用における領域的条件の意義、5条7項の適用に関する論点を含めて、注目すべき解釈がなされた。パネルは一部の手続上の争点を除いて韓国の措置がSPS協定の諸規定に違反すると認定したが、上級委員会は、ほぼ全ての論点につき韓国の措置がSPS協定に違反するとのパネルの認定を破棄した。その結果、韓国の措置は維持されることとなった。本稿では、パネル・上級委員会報告書を概観した上で、本件における主要論点及び示唆について議論する。