執筆者 | 平見 健太 (早稲田大学) |
---|---|
発行日/NO. | 2020年10月 20-P-025 |
研究プロジェクト | 現代国際通商・投資システムの総合的研究(第V期) |
ダウンロード/関連リンク |
概要
本件は、小麦・コメ・トウモロコシに関する中国の関税割当(TRQ)実施のWTO協定整合性が争われた事案であり、WTOを舞台とした農産物を巡る米中貿易紛争の第二弾にあたる。本件では中国の加入に関する作業部会報告書116項の解釈適用が主たる争点となったが、当該規定に関するWTO紛争処理先例は従来存在しなかったところ、本件パネルは初めて同規定の解釈を行い、中国がTRQ実施につきいかなる特別の義務を負っているのか、一定程度明確化することとなった。またパネルは、本件TRQ実施のあらゆる側面が作業部会報告書上の義務に反することを認定したが、中国はこうした結論を受け入れつつも、WTO協定に整合的なかたちで引き続きTRQ実施制度を運用してゆく意向を表明している。したがって今後の焦点は、中国がいかにして本件裁定および勧告を履行するかであるが、この点本件の履行問題は、米中合意(第一段階)の対象事項にもなっており、今後の動向次第では本件紛争の履行をめぐってWTOの内外で問題が生じるおそれがある。