【WTOパネル・上級委員会報告書解説㉝】中国-農業生産者に対する国内助成(DS511)-国内助成(市場価格支持)の算定方法-

執筆者 関根 豪政 (名古屋商科大学)
発行日/NO. 2020年10月  20-P-024
研究プロジェクト 現代国際通商・投資システムの総合的研究(第V期)
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概要

農業分野における国内補助金(国内助成)が実際の紛争としてWTOの紛争解決手続に付託された例は少数にとどまる。これは、国内助成の削減状況が、理由がどうあれ、WTO農業協定の設立後はどの国も概ね良好であったことに起因する。中国についても例外ではなかったが、2010年前後から価格支持が顕著になり、農業協定に違反するとして米国から提訴されるに至ったのが本件である。これまで国内助成(国内市場支持)の算定方法について詳細に分析した事例は存在しなかったため、本件がその最初の事例となる。そのような中で、本件は、市場価格支持の算定に必要となる「固定された外部基準価格」の算定の基準期間を、中国については、加盟文書(譲許表)に記載する1996-1998年とすることが認められたことが注目される。これは農業協定の明文規定(同協定では基準期間は1986-1988年と規定)からの逸脱を認めることになり、どのような理由からそれが認められるのかが重要な論点となる。本件ではそれ以外にも、いくつか手続上及び履行における論点が顕在化しており、今後の紛争解決手続の在り方に示唆を与えるものとして注目される。