【WTOパネル・上級委員会報告書解説㉚】米国-大型民間航空機の貿易に与える措置(第2申立)(21.5条-EU)(DS353)-悪影響を除去しなければならない補助金の範囲-

執筆者 梅島 修 (高崎経済大学)
発行日/NO. 2020年1月  20-P-001
研究プロジェクト 現代国際通商・投資システムの総合的研究(第IV期)
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概要

本件は、世界の大型民間航空機(LCA)市場を2社で寡占する米国・ボーイング社とEU・エアバス社に対して、米国及びEU加盟国がそれぞれに交付した補助金を巡る一連のWTO紛争解決の1つで、米国は原審パネル・上級委員会報告により求められた補助金措置の悪影響の除去または廃止を実施していないとして、EUが提起した履行確認手続である。

パネルは、諸措置のうち1件のみに米国の不履行を認めた。これに対し、上級委員会は、パネル判断の相当部分を覆したが、さらに分析を完結して米国の不履行を認定できた補助金は1件のみで、残余の補助金については、パネルの事実認定不足から米国の履行義務違反の有無を判断できなかった。本事例は、現在の紛争解決制度に差戻手続がないことの問題点を浮き彫りにした。

また、上級委員会は、WTO補助金協定の規制対象となる補助金であるか否かを判断する要素(補助金とならない研究開発契約と資金の直接的移転、事実上の特定性及び地域特定性)及び補助金の効果分析について、これまでの判断基準をさらに明確とした。特に、悪影響を除去すべきとされた補助金の効果が過去の販売行為に反映されてしまっている場合であっても履行国は義務から免れないとした。また、受領した補助金は特に価格に敏感な販売の価格引き下げに集中使用されたとすることに合理的な根拠があると認定した。