アベノミクス下の企業統治改革:二つのコードは何をもたらしたのか

執筆者 宮島 英昭 (ファカルティフェロー)/齋藤 卓爾 (慶應義塾大学)
発行日/NO. 2019年10月  19-P-026
研究プロジェクト 企業統治分析のフロンティア
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概要

本稿の目的は、スチュワードシップ・コードとコーポレートガバナンス・コードの2つを支柱とするアベノミクス下の企業統治改革が、日本の企業統治システムに対してどのような変化をもたらし、また企業行動や業績をいかに変化させたのかを包括的に解明することである。まず、スチュワードシップ・コードの導入の効果として、GPIFなどのアセットオーナーの関与の増加、伝統的機関投資家(信託銀行・投資顧問)のエンゲージメント体制の強化、生命保険会社の「物言う長期株主」へのゆるやかな移行、アクティビストファンドの活動の再活性化が生じたことを示す。次に、コーポレートガバナンス・コードの導入による社外取締役の増加、取締役組織の変化の実態を整理し、それが企業行動・パフォーマンスに与えた影響に関する実証分析の結果を紹介する。さらに、政策保有株比率の多い企業200社を対象とした株式保有行動の分析成果を紹介し、2つのコードが徐々に政策保有株の売却促進に寄与しつつあることを強調する。最後に、企業統治改革が、アベノミクスの成長戦略の実現にどの程度貢献しているのかについて検討し、配当や自社株に対して明確に引上げ効果をもった反面、その構想にもかかわらず、期待されたリスクテイクの促進効果はいまだ確認できないという見通しを示す。