執筆者 | 小林 慶一郎 (ファカルティフェロー) |
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発行日/NO. | 2019年10月 19-P-017 |
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概要
現在の経済政策が直面する四つの課題を整理し、それぞれについて「マクロ経済と少子高齢化」の研究プログラムでどのような研究が行われてきたかを論じる。
第一の課題は、拡張的な金融政策及び財政政策の下で、長期的にデフレが続くという「デフレ均衡」の問題である。標準的な経済学ではデフレ均衡の継続は十分に説明できず、新しい理論的な革新が必要である。ここで紹介する試論的モデルでは、中央銀行がインフレの実現を目標として掲げ、ゼロ金利にコミットすると、意図に反して、デフレが永続し、長期的に債務比率(政府債務のGDPに対する比率)が膨張し続ける均衡になる可能性が示される。
第二の課題は、少子化・高齢化による人口減少などの問題が引き起こす長期停滞の可能性である。長期停滞に対しては、サプライサイドの成長戦略、デマンドサイドの少子化対策、さらに財政破綻のテールリスクの軽減などが重要と考えられる。
第三の課題は、世代を超えた影響を持つ政策決定をどのような手続きで行うべきかという規範的な問題である。現在世代の人々が将来世代の人間になりきるロールプレイングゲームで、人間の将来への志向性を変えようとするフューチャー・デザインの取り組みにヒントを探る。
最後に、そもそもなぜ経済成長は現代社会の目標なのかという政治哲学的な問題がある。資源や環境の制約のある物質的な経済成長は永続できない。知の蓄積による非物質的な経済成長に目標を変えるべき時期ではないか、その際、知の蓄積を永続させる存在として、人工知能は重要な役割を果たす可能性があることを論じる。