【WTOパネル・上級委員会報告書解説㉖】EU-家禽肉製品の関税譲許に関する措置(DS492)-国家実行の支配する分野におけるパネルの法解釈の特質-

執筆者 平見 健太 (東京大学)
発行日/NO. 2019年8月  19-P-014
研究プロジェクト 現代国際通商・投資システムの総合的研究(第IV期)
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概要

家禽肉製品の輸出を近年拡大させつつある中国が、EUによる同製品に関する関税譲許の修正と関税割当の設定を問題視し、その協定整合性を争った事案。国家実行レベルで問題が処理されることの多いGATT28条および13条の解釈が争点となった稀少な事案であり、GATT期も含めこれまで先例のなかった種々の論点につき、パネルが新たに法解釈を示す機会となった。EUは殆どの論点で違反認定を免れ、敗訴のダメージを関税割当の配分の問題(13.2条)に限定することができたが、他方で中国からすれば、同論点につきEUの違反認定を勝ち取ったことで、家禽肉製品のEU向け輸出を拡大する足掛かりを得ることとなった。しかしEUの本件割当措置は、同じく家禽肉輸出国であるブラジル、タイとの28条交渉にもとづく譲許修正と連動して決定されたものであるところ、EUが本件の履行措置として中国に対してのみ割当の再配分を実施すれば、別途ブラジルやタイとの関係で28条や13条に関する法的問題を生じさせる可能性がある。このように本件の背後に控える利害関係国の存在が、紛争処理のゆくえに影響を及ぼしかねない要因となっている。