【WTOパネル・上級委員会報告書解説㉕】インドネシア-鶏肉及び鶏製品に関する措置(DS484)-ハラール要件と自由貿易の交差-

執筆者 関根 豪政 (名古屋商科大学)
発行日/NO. 2019年6月  19-P-011
研究プロジェクト 現代国際通商・投資システムの総合的研究(第IV期)
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概要

近年、世界貿易機関(WTO)の紛争解決手続においてインドネシアの存在感が高まっており、本件はインドネシアが最近提訴されたいくつかの事例のうちの1つである。本件の意義は、検討対象となる法的文書の改正の議論(いわゆるmoving targetの議論)、ハラールを根拠とした貿易制限措置の扱い、GATT第3条4項及び同第20条の各号、そしてSPS協定第8条及び附属書Cの解釈に進展があったことに求められるが、とりわけ、シンボリックな論点が「貿易とハラール要件」(広義には「貿易と宗教」)の問題である。非ハラール産品に対する貿易制限措置は、科学的根拠に依拠しているわけではなく、また、その基準が国によって異なるのが実情である。そのような状況下で、宗教上正当化される貿易制限をいかにして保護主義的な措置と識別するかは難しい課題と言える。本件においては、ハラール要件の内容それ自体が正面から議論されることはなかったが、ハラール産品と自由貿易の関係を考察する上での端緒となる事例と言えよう。