労働者の健康向上に必要な政策・施策のあり方:労働経済学研究を踏まえた論考

執筆者 黒田 祥子 (早稲田大学)/山本 勲 (慶應義塾大学)
発行日/NO. 2019年3月  19-P-004
研究プロジェクト 労働市場制度改革
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概要

生産年齢人口の高齢化が加速する中、最近は労働者の健康が注目される機会が多くなってきた。本稿では、心の健康(メンタルヘルス)と労働との関係について、幅広い読者層を念頭におきながらこれまでの研究から明らかになってきたことを労働経済学の視点から概観・整理し、今後の課題を提示することを目的とする。労働と健康に関連する研究は、労働が健康に及ぼす影響を検証するものと、健康が労働(生産性)にどのような影響を及ぼすのかという2つの視点に大別できる。本稿ではまず、第一の視点である労働が健康に及ぼす影響についてこれまでの研究を整理・考察する。具体的には、労働時間の長さや働き方が、個々の労働者の健康にどのような影響を及ぼすのか、計量経済学の手法を用いて統計的に検証を行った結果を紹介する。そのうえで、労働者の個体差を統計的に取り除いたとしても、労働時間の長さや仕事の性質や働き方、上司との関係性などによってメンタルヘルスが左右されること、すなわち、働き方と健康に明確な関係性があることを指摘する。続く第二の視点として、労働者のメンタルヘルスが生産性にどのような影響を及ぼすのかを、特に企業レベルの生産性に焦点をあてた研究を概観する。具体的には、メンタルヘルスの悪化は労働者個人の主観的な生産性とともに、企業レベルでの業績に悪影響を与える可能性があることを述べる。最後に、これまでの研究で明らかになってきたことを踏まえ、今後、高齢化がさらに進展するわが国において、必要な政策・施策のあり方を検討し、政府や企業などの第三者による介入が必要であることや、その中でも日本では企業の役割が重要であること、さらには、企業による健康施策や働き方改革が有効であることなどを論じる。