人的資本/Human Intelligenceと脳模倣型人工知能/Neuromorphic AI: インテリジェンスという視点から

執筆者 中馬 宏之 (ファカルティフェロー)/今井 正治 (エイシップ・ソリューションズ株式会社)/黒川 利明
発行日/NO. 2017年11月  17-P-031
研究プロジェクト 人工知能が社会に与えるインパクトの考察:文理連繋の視点から
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概要

現行のAIには、大きく2つのタイプがある。実用化に富み今をときめくビッグデータ型AI(以下BD-AIと呼ぶ)と明日のAIを担うとされるがなかなか実用化までに至っていない脳模倣型人工知能(Neuromorphic AI:NM-AI)である。本論の目的は、現時点で実用化に大きな課題を抱えているものの中長期的にはAIの本丸として登場すると期待されているNM-AIに関して、まず、なぜいまNM-AIに注目する必要があるのかについて、経済学のみならず計算機科学・半導体集積回路やNeuroscienceの視点から検討することである。そして、それらの検討結果に基づき、そもそもNM-AIやBD-AIのインテリジェンス特性とは何かを明らかにしつつ、BD-AIの先にあるNM-AIのインテリジェンスと人的資本、したがってHuman Intelligence(HI)との補完性・代替性について論じることである。より具体的には、スーツケースの中身のような種々雑多な特性を持ってしまっているインテリジェンスという言葉を非行動主義的な視点から再整理・細分化することを試みる。そして、そのような試みに基づいて、HIの中核をなす“変化と異常への対応力”やその自己変化能に言及しながら、NM-AIのインテリジェンスとHIとがどのような包含関係や非包含関係にあるのかついて考察する。考察に際して特に留意するのは、人的資本/HIの社会ネットワーク特性(Human Capital as social network)、そして、“変化と異常への対応”に必須な柔軟で高速の視点切り替え装置としての情動、互いの多様な意図や常識・文化等々の共有による広範囲な協力を生み出すコミュニティ形成装置でもある情動、という3つの視点である。