【WTOパネル・上級委員会報告書解説⑭】タイ-タバコ関税および内国税事件(フィリピン)(DS371)-輸入産品の競争機会を減少させる国内規制に対するGATT規律の厳格化-

執筆者 小場瀬 琢磨  (専修大学)
発行日/NO. 2015年7月  15-P-013
研究プロジェクト 現代国際通商・投資システムの総合的研究(第II期)
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概要

本件はフィリピンからタイへのタバコの輸入をめぐる事件である。申立国フィリピンは、タイの関税評価、輸入タバコに対する差別的内国税、および輸入タバコに対する規制措置のWTO法適合性を問うた。本件の争点の1つは、国産品と輸入品の税務処理の差異がGATT3条4項に違反するかという点であった。本件のパネル・上級委員会は、輸入産品に対して国内産品よりも「不利でない待遇」を与えるように命ずる3条4項の解釈に当たって、問題となる措置の「現実的効果(actual effect)」を考慮することまでは求められず、むしろ輸入産品の競争条件に対する「潜在的効果(potential effect)」に基づいて不利な待遇の成否を判断してよいと判示した(上級委員会報告書135段)。この判示は、「不利でない待遇」の文言について判例解釈を通じて内国民待遇原則の適用範囲を拡張したものと読んでよいか。よいならば、輸入産品の競争条件に消極的影響を与える効果が(現実的であれ潜在的であれ)認められる規制措置は、輸入品に「不利な待遇」を与える違法な措置となろう。また、原産国とは無関係の事由に基づく規制(原産地中立的規制)に対して本件の「不利な待遇」の成立基準を適用してよいならば、不利な待遇の成否は措置の貿易制限的効果に大きく依存することになろう。本件パネル・上級委員会は、「不利な待遇」に関する検討の重点を輸入産品の競争条件の不利益変更という措置の性質の側面に傾斜させた。この判示は、ただしWTO加盟国に対して輸入国の国内市場における輸入産品の競争条件の平等保障を義務づけたものであって、規制緩和まで求めたものとはいえない。