【WTOパネル・上級委員会報告書解説⑬】中国-電子決済サービスに関する措置(DS413)-GATSの規範構造の不完全性を中心に-

執筆者 国松 麻季  (三菱UFJリサーチ&コンサルティング)
発行日/NO. 2015年6月  15-P-009
研究プロジェクト 現代国際通商・投資システムの総合的研究(第II期)
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概要

本件は、GATS(サービス貿易一般協定:General Agreement on Trade in Services)の金融サービス分野に関する初めての報告書である。

本件は、中国銀聯(China UnionPay)が世界のクレジット・カード市場で急速に拡大しているなか、「VISAカード 対 中国銀聯カード」という対立の構図が報道されたことなどを背景に注目を集めた。米国は、人民元建てカード決済の銀聯による独占、外資系参入禁止といった中国政府の措置がWTO違反であると主張したが、パネルはこれらの措置は立証ならずと判断した。中国のWTO違反が認められたのは、ロゴ表示義務や端末設置義務など、周辺的な措置に留まった。しかし、米国は自国の主張が概ね認められたとの発信を続けており、これに対して中国は、パネル判断とは関連しないとの立場をとりつつも、決済事業を含む金融規制緩和策を発表している。

こうした世界のカードビジネスの勢力図や米中政府の思惑とは離れ、本件パネル報告はGATSの法規範のうえで興味深い論点を提起するものであった。第1に、GATS16条と17条の関係および20条の解釈を通じ、GATSの規範構造の不完全性が改めて認識された。第2に、サービスの同種性に関しての解釈を深化させることが困難である。第3に、対象とするサービスの範囲の不透明性が改めて明らかになった。