【WTOパネル・上級委員会報告書解説⑪】フィリピン-蒸留酒に対する課税(DS396, 403)-開発途上国における酒税制度と内国民待遇原則-

執筆者 石川 義道  (静岡県立大学)
発行日/NO. 2015年5月  15-P-007
研究プロジェクト 現代国際通商・投資システムの総合的研究(第II期)
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概要

フィリピンでは従来、伝統的な原料(穀物、ブドウなど)から製造される輸入蒸留酒(ジン、ブランデー、ウィスキーなど)の類似品を国内で製造すべく、原料であるサトウキビ糖蜜からエチルアルコールを蒸留し、そこに香料を加えるという独自の製法が採られてきた。そのため、両蒸留酒は原料および製法を異にするものの、色・味・香りは酷似している。またフィリピンでは、国産蒸留酒は輸入蒸留酒に類似した商品名、デザインを用いる傾向があり、加えて、サトウキビ糖蜜を原料とする蒸留酒であってもジン、ブランデー、ウィスキーなどと表示して国内で販売することが許容されてきた。そのため、両蒸留酒はフィリピン消費者に区別できない形で提供されてきた。このような状況でフィリピンは、サトウキビ糖蜜を原料とする蒸留酒(すべて国産蒸留酒が該当する)には低率の従量税を一律に課し、これに対して伝統的な原料から製造される蒸留酒(殆どの輸入蒸留酒が該当する)には、一律かつ公平な税制という憲法上の要請に応じて、累進課税制度に基づく高い税率を課してきた。そこで本稿では、これらのフィリピン特有の事情を前提とした本件パネルおよび上級委員会判断が、GATT第3条2項における規律の明確化にいかなる示唆を提供するか検討する。