【WTOパネル・上級委員会報告書解説⑨】米国-原産国名表示要求(COOL)事件(DS384、386)-生鮮食品の原産国名表示と国際貿易-

執筆者 内記 香子  (大阪大学)
発行日/NO. 2014年9月  14-P-022
研究プロジェクト 現代国際通商・投資システムの総合的研究(第II期)
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概要

本件は、米国-クローブ入りタバコ規制事件・米国-マグロラベリング事件に続いて、2012年に上級委員会報告がだされた3つ目のTBT協定(貿易の技術的障害に関する協定:Agreement on Technical Barriers to Trade)の案件として注目を集めた。本件は、2.1条および2.2条が主要論点であり、ラべリング措置であることからも先のマグロラべリング事件に近い側面もあるが、本件は、生鮮食品の原産国表示であるという点に特徴がある。生鮮食品は、生産・育成過程の実態が各国の地理的環境によって異なる傾向が大きい。本件のような原産国名表示要求(COOL)が、不必要な貿易制限を禁止するTBT協定2.2条違反を構成するのかどうか、興味深いところであったが、本件で認められたのは2.1条の無差別原則違反だけであった。TBT協定ではいまだ2.2条違反の措置はないという結果となったが、この傾向が必要性要件を定めたTBT協定のもつ意義を損なうものでないか、懸念される。事件後、米国は履行措置をとったが、結果としては差別的ではなくなったものの、貿易に対する影響は残り、履行確認パネルでの2.2条の判断が注目される。