【WTOパネル・上級委員会報告書解説⑧】EC-中国産ファスナーに対する確定アンチダンピング税(WT/DS397)-非市場経済国の企業に対するアンチダンピング税の賦課方法をめぐる諸問題-

執筆者 伊藤 一頼  (静岡県立大学)
発行日/NO. 2013年9月  13-P-017
研究プロジェクト 現代国際通商システムの総合的研究
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概要

本事件において特に注目された争点は、非市場経済国に対するアンチダンピング措置において、個別の企業ごとではなく、国単位で一律にアンチダンピング税率を算出するという手法がWTO協定に整合するか否かである。EUは、非市場経済国では国家と諸企業とが事実上結合しているため、もし企業ごとの個別税率を適用すると、最低税率の企業に他企業から商品や資源が移転され、アンチダンピング措置の効果減殺が可能になってしまうとして、国単位の一律税率の適用を正当化しようとした。しかし、本件のパネルおよび上級委員会は、アンチダンピング協定は原則として企業ごとの税率計算を求めているとして、EUの手法は協定違反であると認定した。ただし本件判断は、調査当局が能動的に証拠を収集し、複数の企業間、あるいは国と諸企業との間に、組織的関連性の存在を立証する場合には、それらを単一主体として扱い、一律税率を適用することもできると述べた。つまり、非市場経済国の企業は全て一体であるという単純な推定は許されないものの、企業間の現実の結合性を証拠に基づき示すことで、一律税率を賦課する余地を残したのである。もっとも、この企業間もしくは国と企業との間の結合性を、調査当局が具体的にいかなる方法論を用いて立証すればよいのかは説示されておらず、この点の基準の明確化が今後の政策的な課題となる。