執筆者 | 乾 友彦 (日本大学) /枝村 一磨 (科学技術政策研究所) /譚 篠霏 (東京大学) /戸堂 康之 (ファカルティフェロー) /羽田 翔 (日本大学) |
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発行日/NO. | 2013年3月 13-P-005 |
研究プロジェクト | 東アジア企業生産性 |
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概要
2000年代半ば以降、中国企業による先進国企業のM&Aが急増している。こういったM&Aの主な目的は、海外市場の拡大、および技術やノウハウなどの戦略的資産の獲得である。この論文は、中国企業の対外M&Aが企業業績に与える影響を、企業レベルのデータを利用して計量経済学的手法で定量的に推計した。その結果、対外M&Aによって、売上高、労働生産性、固定資産、無形資産(特許など知識資産を含む)は大幅に増加するが、従業員数や研究開発支出の対売上高比率は変化しないことが見出された。ただし、固定資産や無形資産の増加だけでは売上高の増加の約60%しか説明できず、残りの40%は、無形資産には計上されない技術・ノウハウや、海外市場での販売ネットワークなどを獲得したことに起因すると考えられる。したがって、中国企業は対外M&Aによって、戦略的資産を獲得して海外市場を拡大するという目的を、少なくとも平均的には達成していると考えられ、対外M&Aを活用した経営戦略が中国企業の世界市場での台頭に寄与していると結論づけられる。ただし、このことが日本経済にとって好ましくないとは必ずしも言えず、この点について日本側から見た研究を今後行っていくことが必要である。たとえば、中国企業の対日M&Aにおいて、中国企業のノウハウと日本企業の技術が補完的に作用して、両者にとって好ましい結果が導かれることもあるからだ。実際、先進国企業によるM&Aによってその後の日本企業の生産性が向上することが、Fukao et al.(2006)の研究からも指摘されている。