「東日本大震災による企業の被災に関する調査」の結果と考察

執筆者 浜口 伸明  (ファカルティフェロー)
発行日/NO. 2013年1月  13-P-001
研究プロジェクト グローバル化と災害リスク下で成長を持続する日本の経済空間構造とサプライチェーンに関する研究
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概要

本稿では東日本大震災の被災地域に立地する製造業事業所を対象に実施したアンケート調査から得られたデータを用いて、この地域に見られるサプライチェーンの特徴と被災の影響を分析する。被災地の事業所は、顧客対応力と低価格を実現する技術力でサプライチェーンの中で容易に代替が見つけられない存在になっている。生産設備が全壊あるいは半壊の甚大な被害を受けた事業所の半分は宮城県に集中した。外部サービスの寸断の影響は、電力、部品調達、輸送、工業用水の順に多かったが、電力寸断の影響が宮城県以外で10日以下であったのに対して、部品調達寸断の影響は1カ月以上に及んだ。操業停止状態にあった期間は平均約16日間、最も長かった宮城県では26日間であった。震災後仕入先を変更した事業所では新たな仕入先を探す際にこれまでの仕入先企業と同等あるいはそれ以上の品質や納期のスピードを要求する一方で、仕入価格の上昇や距離が遠くなることによる不便は甘受する傾向が見られた。震災後、売り上げの減少はあったものの、総じて雇用は維持された。震災後に災害危機管理対策として、定期的な訓練や事業継続計画の作成、工場の耐震化、自家発電装置の装備や代替輸送方法の検討などが優先的に検討されているものの、ごく稀にしかおこらない巨大自然災害に備えるコストをかける余裕はないと考える企業は少なくない。