執筆者 | 植村 修一 (上席研究員) |
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発行日/NO. | 2012年11月 12-P-019 |
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概要
今回の世界的な金融危機の発生を受けて、各国政府・国際機関の間で、マクロプルーデンス政策に対する関心が高まり、その体制整備が進められている。マクロプルーデンス政策とは、広く金融システム全体に潜むリスクに着目して、それに対処することにより、金融システムの安定を図ろうとする考え方である。その概念定義や具体的な政策手段、体制のあり方を巡っては、現在、各国の経験に対するサーベイ等を基に議論や検討がなされている最中であるが、そこで挙げられている政策手段の1つに、信用規制がある。
わが国では、1980年代後半、地価が急激に上昇し、その結果、90年に入り、不動産業向け融資の総量規制が導入された。これは、当時の金融引締め政策と並んで、バブルの崩壊を招いたとされる。総量規制は、信用規制の一種であるが、あくまでも土地対策として採られた措置であり、当時、マクロプルーデンス政策としての発想は希薄であった。その背景には、根強い土地神話、金融自由化の思想、内需拡大による対外不均衡是正というマクロ経済政策上の要請などから、リスク認識や規制意識が乏しかったことがある。総量規制は、導入当初、各方面から支持を受けたが、「失われた10年」と呼ばれる日本経済のパフォーマンス悪化から、後において積極的にこれを評価する向きが少なく、むしろ、規制色の強さと相まって、「悪名高い」存在となっている。しかし、プルーデンス政策として、バブルに対するカウンターシクリカルな規制として、より早期に導入されていたならば、その評価や日本経済に及ぼす影響が、かなり異なったものとなった可能性もある。この点、当時の政策当局間の合意形成やシステミックリスクに係る認識摺り合わせが十分でなかったことが、マクロプルーデンス政策における隙間を生んだと考えられる。
今後、わが国においては、金融庁や日本銀行が中心となって、マクロプルーデンス政策が行われると考えられるが、金融政策との関係を含めて、未だ議論の余地が大きい。少なくとも、日常、システミックリスクについて、関係機関の共通した認識があるのかないのか、国民から見えない状況については、できるだけ早期に解消する必要がある。