執筆者 | 内記 香子 (大阪大学) |
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発行日/NO. | 2011年5月 11-P-015 |
研究プロジェクト | WTOに関する総合的研究 |
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概要
本件は、ECの遺伝子組換え産品事件およびECのホルモン牛肉II事件(米国カナダの譲許停止継続事件)という、国際社会で注目を集めた2つの事件の後に発出されたSPS紛争の判断であり、先の2件で問題となったSPS協定第5条1項の義務がどのように解釈適用されたのかをみる上で重要な位置づけにあった。第5条1項は、衛生植物検疫措置を「リスク評価に基づいてとる」ことを要求するもので、科学的基礎を求めるSPS協定上の重要な条文の1つである。本稿では、この第5条1項の解釈適用にどのような展開があったかに注目したが、本件が、火傷病に関する日本のリンゴ検疫事件と同様の植病を扱っていたことから、科学的知見について、新規の事件に比べて論争が少なく、第5条1項の適用が比較的、容易であったことが指摘できる。第5条1項の解釈については、ECのホルモン牛肉II事件の上級委員会判断を踏襲するところに落ち着いている。ある意味、解釈・結論共に、予想どおりの結果であったわけであるが、敗訴が分かっていながらDSにいってしまったということは、先のDS判断(日本のリンゴ検疫事件)の潜在案件(本件)への影響力があるのかどうかという疑問をなげかけ、また、豪州の国内政治がDS前の妥協を許さない事態であったのか、今後の豪州による実施のプロセスをみながら、注視していく必要がある。