日本企業システムの進化をいかにとらえるか:危機後の企業統治の再設計に向けて

執筆者 宮島 英昭  (ファカルティフェロー)
発行日/NO. 2011年3月  11-P-009
研究プロジェクト 企業統治分析のフロンティア:日本企業システムの進化と世界経済危機のインパクト
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概要

2008年9月のリーマン・ショックは、1980年代初頭にはじまり、その後30年に渡って進展した規制緩和・資本市場の役割の拡大の再検討を促す重要な契機となった。「行き過ぎた市場化」が指摘され、外国人投資家の増加が近視眼的な企業経営を誘発する、あるいは、雇用を犠牲にして過度な配当・報酬が支払われているといった批判が強まった。他方、その逆に、日本企業の企業統治の国際的標準からの遅れが、海外投資家の日本市場からの逃避を招いているとして、上場子会社の禁止、外部取締役の強制、持合いの解消の促進などの一連の制度改革が主張されている。もっとも、いずれの主張も、正確な現状認識と制度変化の効果に関する十分な分析に支えられているわけではない。リーマン・ショック後の企業統治の再設計のためには、銀行危機以降、日本の企業統治がいかなる要因によって、どの程度変化したのか、リーマン・ショックはこの企業統治の進化にどのようなインパクトを与えたのかを正確に理解する必要があろう。本稿の課題は、こうした問題意識から、銀行危機以降の企業統治に発生した変化を可能な限り包括的に解明する点にある。以下、2節では、日本の企業統治の進化に関する概観が与えられる。第3節では、銀行危機以降の日本企業の変化を多様化とハイブリッド化を鍵として理解する見方が示される。4節は、企業統治・組織アーキテクチュアの変化と企業行動・パフォーマンスの関係を追跡する。5節は、近年の日本企業システムのハイブリッド化に伴うコストついて仮説的な見方を提示する。6節は、危機後の企業統治の再設計のアジェンダである。