国際投資協定:現代的意味と問題点-課税事項との関係を含めて-

執筆者 小寺 彰  (ファカルティフェロー)
発行日/NO. 2010年12月  10-P-024
研究プロジェクト 通商関係条約と税制
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概要

1959年に初めて締結された国際投資協定(IIA)は、徐々に増加し現在では2700を越えた。21世紀に入ってIIAはにわかに注目を集めたが、それはIIA中の、投資企業が投資受入国(ホスト国)との紛争を処理するための仲裁制度(IIA仲裁)がその頃から活発に利用されるようになったからだ。IIAは、ホスト国に対して投資企業を自国民や最優遇国民と同一に扱うこと(内国民待遇・最恵国待遇)、公正衡平に扱うこと(公正衡平待遇)などを義務づける。IIA仲裁によってこれらのIIA上の義務の内容が明確化し、それによってホスト国に相当強い拘束を課すことが分かった。

このことは新たな問題を生んだ。1つは、IIAがホスト国をどのような強度で又どのような状況において拘束するのが適当と考えるかという問題であり、もう1つは、IIA仲裁に国家の公的措置が俎上に上がり、また通常の仲裁と異なり、裁判のようにホスト国の仲裁相手が事前に特定されないことなどのIIA仲裁の特色を手続にどのように反映すべきかという問題である。

前者は、元来事実上国際法の規制が及んでいなかった事項にIIAの規制が及び、しかも規定内容の抽象性のために予想外に強い拘束と意識されたことによる。そこで、一方では規定内容を詳細化してホスト国がIIAによって負う義務の内容を明確化し、また他方ではIIA規定の適用されない事項をIIAの例外としてIIAの適用範囲の画定が試みられている。また後者の仲裁手続については、仲裁判断の公表に加えて、第三者意見書の提出が認められる例が増え、さらにWTOの上級委に似た上訴手続の提案も行われている。

これら新たな取組の中心的課題は、投資企業の保護とIIAの効果の適正化・仲裁手続の裁判手続化をいかにバランスさせるかである。