政府統計ミクロ・データによる生産性分析

執筆者 伊藤 恵子  (専修大学) /松浦 寿幸  (慶應義塾大学産業研究所)
発行日/NO. 2010年11月  10-P-010
研究プロジェクト 産業・企業の生産性と日本の経済成長
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概要

本稿では、経済産業研究所における企業・産業生産性研究会において実施した、ミクロ・データによる日本企業の生産性分析に関する研究成果を、企業の参入・退出と企業のグローバル化という2つの論点を中心に紹介する。企業の参入・退出に関する分析の多くは、マクロ、産業レベルの生産性変動を要因分解し、個々の企業・事業所の生産性変動と、参入・退出、および既存企業・事業所のシェア変動のうち、どの要因がマクロ、産業レベルの生産性変動に大きなインパクトをもたらしたかを調べるものである。業種によって結果は異なるもの、製造業では内部効果(既存企業の生産性上昇効果)の寄与が大きいことや、非製造業では2000年代に入って再配分効果(生産性の高い企業のシェア拡大効果)や純参入効果(生産性の高い企業の参入、および生産性の低い企業の退出による効果)が生産性の改善に寄与している業種がみられることが指摘できる。

グローバル化については、個々の事業所・企業の生産性変化、および生産性格差に注目した分析が行われており、生産性の低迷や製造業雇用の減少という面で、企業活動のグローバル化自体がその原因となったとはいえない、という結論を得ている。生産性については、グローバルな活動を行っている企業は、もともと生産性が高いだけでなく、ある条件のもとでは学習効果を通じて生産性を向上させており、グローバル化が競争を通じて産業全体の生産性向上に結び付いていないことが問題といえそうである。

こうした、これまでの研究成果を踏まえ、今後、必要とされる研究課題や、研究課題の分析にあたって必要とされるインフラ整備についても議論する。