持続可能な地域経済システムの構築 - 倉敷市における調査に基づいた経済構造分析

執筆者 中村 良平  (ファカルティフェロー) /森田学  (価値総合研究所)
発行日/NO. 2008年10月  08-P-011
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概要

本研究は、持続可能な地域経済システムの構築を目指すための「地域経済構造分析」を、倉敷市地域を事例として実施したものである。「地域経済構造分析」は、2004年に経済産業省から「地域経済構造分析の手引き」(平成16年度版)として公表されているが、その手順を示すと、(1)対象地域の設定。(2)基本的な地域経済指標の推移・動向の把握。(3)少し踏み込んで経済の構造、所得や雇用の状況を類似地域との比較をする。具体的には、所得(マネー)を獲得している産業(移出産業:特化産業)、雇用を吸収している産業(集積産業)、付加価値を生み出している産業(基幹産業)などの識別をおこなう。(4)地域経済における財貨・サービスの流れ(漏出入、循環度)の把握をする。これによって、獲得したマネーの域内の循環と域外への漏出の程度を検証する。(5)地域産業の生産効率性、収益に関する安定性と成長度の診断をおこなう。



そして、この(2)から(5)までを併せて地域経済の処方箋を考えるということになる。このうち、(4)の地域経済循環は産業連関構造を把握することを意味し、地域経済の構造を分析する上では最も重要な部分であるが、これを既存統計で把握するのは一般に困難であり相当程度の調査を必要とする。いわゆる小地域の産業連関表(特に非競争移入型)の構築をサーベイ・メソッドで実施することを意味する。これによって産業間の域内取引のみならず、産業間の取引における域際関係も把握できることになる。地域産業連関表は経済波及効果を調べるのが従来の適用方法であるが、本研究では、自立的な地域経済を構築するにはどのような域内産業連関を創出すればよいかという視点に立ち、従来の産業振興に関わる投資効果の分析(建設事業、産業誘致の効果)に加えて、産業別の前方および後方連関効果、産業構造を変化させたとき(たとえば移入係数を変化させたとき)のシミュレーション分析をおこない、どのような連関構造が望ましいかを考察している。なお本PDPは、研究論文よりもむしろ、地域経済構造分析の実例をあげつつ政策分析の手順を示すことを指向したものである。