ノンテクニカルサマリー

トランプ関税2.0の影響と企業の対応はどう異なるか:企業アンケート調査による記述的分析

執筆者 伊藤 萬里(リサーチアソシエイト)/神事 直人(ファカルティフェロー)/直井 恵(カリフォルニア大学)
研究プロジェクト 企業のグローバルな経済活動が直面する課題と直接投資の効果に関する研究
ダウンロード/関連リンク

このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

貿易投資プログラム(第六期:2024〜2028年度)
「企業のグローバルな経済活動が直面する課題と直接投資の効果に関する研究」プロジェクト

米国の通商政策不確実性は、2018年以降の米中摩擦を通じて日本企業にも生産・貿易の再編を迫ってきた。2025年に発動された相互関税(いわゆる「トランプ関税2.0」)は同盟国も対象となり得るため、企業への影響と適応行動が一段と重要になる。本研究は「誰が影響を受け、誰が対応できるのか」を明らかにするため、独自アンケートに基づく実証分析を行った。

調査は2025年4月4日〜6月17日に製造業15,000社を対象に実施し、1,855社から有効回答を得た。影響(5段階)、対応の進捗(5段階)、対応内容(複数選択)を質問し、回答を経済産業省企業活動基本調査の調査票情報と接合して、輸出(地域別・企業内/企業間)、企業規模(売上高)、生産性(TFP)、多国籍性などの企業属性を整備した。分析はロジット等を用いた関連(相関)分析であり、因果効果を断定するものではない。

主な結果は次の通りである。第一に、対米輸出企業、とりわけ企業内での取引の割合が大きい企業ほど、トランプ関税の影響がより大きいと答える傾向が明らかになった。第二に、直接の対米輸出依存が小さい企業でも、サプライチェーン上で上流(最終需要から遠い)に位置するほど影響が大きくなり得る点が示唆された。第三に、「対応の進捗」は企業規模(売上高)との関連が強く、生産性は単独で一様に効くというより、大規模かつ生産性の高い企業では対応が進みやすいというように、両者が補完的に作用する傾向がみられた。第四に、「対応内容」には棲み分けがあり、対米企業内輸出の実施企業では対応内容として対米投資(現地化)が相対的に選ばれやすい一方、対米企業間輸出の実施企業では価格・コスト対応が中心となりやすい。中国・アジア向け輸出企業では第三国市場の拡大(域内での再配置・深掘りを含む)が示唆される。

図1は業種別に、横軸に北米向け輸出シェア(北米向け輸出額/輸出額の業種平均)、縦軸に「対応あり」割合(検討中を含む)を取り、バブルの大きさで「影響あり」割合(「ある程度」+「非常に」)を表している。全体として北米依存が高い業種ほど影響・対応が大きいという順相関が見られる一方、北米依存が高くないのに影響が大きい業種も存在し、下流産業を通じた間接波及の可能性を示している。

図1. 業種別の北米依存・影響・対応
横軸は業種平均の北米向け輸出シェア、縦軸は「対応あり(検討中を含む)」の回答割合。バブルが大きいほど影響あり割合が高い。
図1. 業種別の北米依存・影響・対応
注:北米向け輸出シェア=北米向け輸出額/輸出額(業種平均)。影響あり=「ある程度」+「非常に」。

実務面での含意として、企業にとっては、北米への直接暴露(輸出シェア、企業内取引の有無)に加え、上流度の高低や主要顧客・用途といった「間接的な影響経路」も含めて、自社がどの経路で影響を受けるかを整理して把握することが有用である。対応は段階的に進む傾向が見られるため、短期的には固定費があまりかからない対策(価格・コスト、仕向地の見直し)を整えつつ、必要に応じて第三国展開や現地化を選択肢として検討することが考えられる。

政策的には、「影響が大きい企業を見つけ、実行できるようにする」ことが重要である。具体的には、①対米の企業内取引など影響が強く出やすい企業群には、必要に応じて手続や証憑整備、制度対応などの実務面の支援を厚くする、②規模の小さい企業ほど対応の実装に踏み出しにくい傾向を踏まえ、情報提供に加えて、専門人材の派遣・マッチング、認証・通関実務、取引先・販路開拓の伴走、小規模投資のリスクシェアといった「実行の固定費」を下げる支援を拡充する、③対応メニュー(価格対応・第三国シフト・対米投資)ごとに支援の中身を出し分ける、という設計が有効であると考える。