ノンテクニカルサマリー

経済はどこから縮むのか:人口減少下、地方小都市で加速する産業喪失と、職の東京一極集中

執筆者 森 知也(ファカルティフェロー)/小川 実起 (京都大学)
研究プロジェクト 人口減少下での日本の都市と地域の持続可能性
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

地域経済プログラム(第六期:2024〜2028年度)
「人口減少下での日本の都市と地域の持続可能性」プロジェクト

人口減少は、どの地域も同じように少しずつ縮む形では進まない。都市の規模が「どの産業がその都市に成り立つか」を決めており、縮小はこの階層を通じて、小さな都市から産業を丸ごと引きはがし、東京へ集める形で進む。本稿は、経済センサスの全事業所データと、労働者の移住を賃金の変化とともに追跡するパネルデータを用いて、この過程を実測した。

1.都市は産業の「入れ子」でできている

どの都市にもある産業(食品スーパー、診療所)から、大都市にしかない産業(専門病院、専門書の出版社)まで、産業の立地は都市規模で決まる入れ子構造をなす。この構造は日本標準産業分類小分類(2020年)587産業のすべてで統計的に確認できる(論文 図3)。背後にあるのは、産業ごとの「成立に必要な最小人口(閾値)」である。なお、本稿でいう「都市」は市町村の行政区域ではなく、人が実際に密集して住む範囲をつないで定義した都市圏(UA、全国448圏)である。

2.地方の小さな都市ほど、産業はまとめて消える

生活必需業種の閾値は低い水準に密集している。そのため同じ率の人口減でも、小都市は多くの閾値を一斉に割り込み、産業を——職を——まとめて失う(図1左)。2010年代の実測では、最小クラスの都市圏は保有産業の約2割を失った一方、大都市圏はほとんど失っていない(図1右)。

図1 職の凹性:都市規模と産業数(左)・2010年代の産業退出率(右)(論文 図4a,b)
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図1 職の凹性:都市規模と産業数(左)・2010年代の産業退出率(右)(論文 図4a,b)

3.失われた産業は「上」へ集まり、賃金の差が若者を東京へ導く

消えた産業は日本から消えるのではなく、それを維持できるより大きな都市へ集約される(上方集約)。特化産業ほど賃金が高いため、産業を失った地元に残れば、より低賃金の職に下りるしかない。失った所得を取り戻せる場所は、全産業のそろう唯一の都市・東京だけになる(図2)。東京一極集中は、この階層の力学の帰結である。

図2 階層と賃金:産業を失った出身地から東京への移動が所得を取り戻す(論文 図6)
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図2 階層と賃金:産業を失った出身地から東京への移動が所得を取り戻す(論文 図6)

4.移動者の賃金がそれを裏づける

出身県を「規模×若年減少速度」で4つの型に分け(図3)、若年移動者の賃金の伸びを個人パネルで追うと、(1) 小さく・速く縮む出身地からの東京移動者ほど賃金の伸びが大きく、(2) 大規模でも衰退する中核圏からの移動にも同種の上乗せがある。出生数など人口動態的に事前に決まった要因だけを使っても同じ結果が得られ、逆因果では説明できない。東京移動プレミアムは、出身地が階層のどこで何を失ったかが、賃金となって現れたものである。

図3 出身県の4類型:規模×若年減少速度と保有産業数(論文 図8a)
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図3 出身県の4類型:規模×若年減少速度と保有産業数(論文 図8a)

5.韓国も同じ道を進む

ソウル一極の韓国でも、産業立地が人口分布を追うようになった2006年以降、若年減少の深い地域からのソウル移動者ほど高い賃金プレミアムを得ている——日本と同じ符号である。日韓は特殊例ではなく、30カ国以上で生産年齢人口が減り始めるOECD諸国の未来を先取りしている。

政策へのインプリケーション

  • 「全国一律」の地方創生は、この階層の力学に逆らう。実効的な問いは「どの都市を、どの産業の閾値の上に保つか」という選択である。
  • 賃金や雇用への補助で若者を地方に留める政策は、コストが高い以前に、原理的に効かない。小さな都市が失うのは限界的な雇用ではなく、産業まるごとである。そして閾値を割って消えた産業は、雇用補助では戻らない——制約は人件費ではなく、市場の規模だからである。したがって政策の問いは「どの地域に、いくら補助するか」ではなく、「どの都市を閾値の上に保ち、どこをそこへ集約するか」に変わる。
  • 現実的な処方の第一は、圏域の中核都市を閾値の上に保つことである——周辺が失う産業・管理機能を受け止める「受け皿」都市(例:仙台)の維持。これは裏返せば、どの地域を計画的に畳むかを同時に決めることでもある。維持する都市の選択と、維持しない地域の選択は表裏一体である。
  • 第二は、必需業種の閾値自体を下げる投資である(遠隔医療、移動販売、行政サービスのデジタル化)。ただしその前提として、閾値を下げられない業種の特定が要る。下げられない必需サービスこそが、事実上その都市・地域の持続可能性を規定するからである。
  • 第三は、集約の設計である。「コンパクト+ネットワーク」を進めるか否かではなく、どうコンパクト化し、どうネットワーク化するかが問いである。どの都市が何を失うかは、階層の論理でかなりの程度予見できる——この予見可能性に基づく事前の設計は、事後の対応より安くつく。
  • そして、小さな都市圏では、働き手世代(15〜64歳)の減少の約3分の2が自然減——引退で抜ける世代を、生まれてくる世代が埋められないことによる減少——であり、移動の抑制だけでは縮小は止まらない。政策にできるのは、人口減少のインパクトを緩和して、縮小均衡に向けて軟着陸させることである——これが本稿の示唆である。