| 執筆者 | 濱野 正樹(早稲田大学)/Kongphop WONGKAEW(早稲田大学)/村上 勇気(早稲田大学)/大久保 敏弘(ファカルティフェロー) |
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| 研究プロジェクト | 日本経済の活性化と地方・都市の創生 |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
特定研究(第六期:2024〜2028年度)
「日本経済の活性化と地方・都市の創生」プロジェクト
災害復興政策は「維持」から「再編」へ
― 製品レベル分析が示す地域経済の真の調整メカニズム ―
1995年の阪神・淡路大震災は、神戸市の製造業に大きな打撃を与えた。本研究は、工業統計の個票データを用いて、震災の影響を6桁製品レベルで詳細に分析したものである。
震災後、神戸市の製品売上および事業所数は平均で約1割減少した。しかし、本研究が明らかにする最も重要な事実は、その影響が決して一様ではなかったことである(図1)。同じ産業の内部でも、売上が大きく落ち込んだ製品がある一方で、比較的早期に回復した製品、さらには拡大した製品も存在した。震災は「産業全体」を均等に縮小させたのではなく、「製品ごとの選別(ソーティング)」を通じて経済構造の再編を促していたのである。
構造推定の結果、製品ごとの売上や事業所数の変動は、主に製品固有の需要の変化やコストの変化によって説明されることが示された。すなわち、地域内部での調整は、マクロ的な景気変動ではなく、製品単位の需要シフトと退出・参入の動態などによって決まっている。一方で、GDPなどのマクロ変動は主として全国的なショックに左右されていた。このような結果は、災害復興政策の前提を問い直すものである。
政策的含意:一律支援は構造転換を阻害しうる
第一に、産業単位の横並び支援は、実際の調整プロセスと整合的でない可能性が高い。阪神大震災後の神戸では、同一産業内において製品間格差が急速に拡大していた。産業全体を一括して保護する政策は、成長可能性の低い製品の退出を遅らせる一方で、拡大余地のある製品への資源移動を妨げる恐れがある。
第二に、災害後の復興は「元に戻す」過程ではない。本研究では、震災後に効率性の高い事業所への集約が進む側面も確認された(注1)。これは、災害が経済的損失をもたらす一方で、構造調整を通じた生産性の改善・向上の契機ともなりうることを示唆している。復興政策が横並び、つまり既存の製品生産の維持を過度に優先する場合、この再編メカニズムを弱める可能性がある。
第三に、復興政策は「損失の補填」と「構造再編の促進」を明確に峻別すべきである。短期的な資金繰り支援や再建支援は不可欠であるが、それと同時に、事業転換や新規参入を後押しする制度設計が必要となる。単なる既存事業の延命ではなく、需要が拡大する分野への移行を支援する政策が重要である。少子高齢化が進み地方が過疎化する下での復興政策は単なる損失の補填や地域の再生にとどまらず、どう地方や地域を再編していくかの視点が重要になるだろう。
今後の政策設計への提案
本研究の結果を踏まえると、今後の大規模災害や経済ショックに対しては、次のような視点が求められる。
- 産業単位ではなく、より細分化された分野・製品単位での影響を考慮
- 成長可能性のある製品分野への重点支援と資源再配分の促進
- 事業転換・設備更新・新規参入を後押しする制度整備
- 既存製品から新規製品の生産開始など円滑な再挑戦支援の強化
今の日本において大規模自然災害は不可避であるが、その後の経済構造の姿は復興政策によって左右される。本研究は、地域経済のレジリエンスを高めるためには、「産業を守る」政策から、「再編を支える」政策へと発想を転換する必要があることを示している。大規模ショックは単なる縮小ではなく、構造転換の契機でもある。復興政策は、その転換を阻害するのではなく、円滑に進める設計であるべきである。
- 脚注
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- ^ なお、Cole, Elliott, Okubo and Strobl (2019)が明らかにしたように町丁目レベルの被災に加えて個々の企業の建物レベルの被災度合いが企業の生存や復興後の成長・生産性に大きく影響している。
- 参考文献
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- Cole, M. A., Elliott, R. J., Okubo, T., & Strobl, E. (2019). Natural disasters and spatial heterogeneity in damages: the birth, life and death of manufacturing plants. Journal of Economic Geography, 19(2), 373-408.