ノンテクニカルサマリー

金融は新規企業の創出と成長を促進するか―日本の地域データを用いた実証分析―

執筆者 本庄 裕司(ファカルティフェロー)/小野 有人(中央大学)/鶴田 大輔(日本大学)
研究プロジェクト 企業金融・企業行動ダイナミクス研究会
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

産業経済プログラム(第六期:2024〜2028年度)
「企業金融・企業行動ダイナミクス研究会」プロジェクト

本稿は、日本の都道府県レベルのパネルデータ(2007‒2023年)を用いて、地域金融の発展が地域における起業の創出と成長にどのように影響するかを実証的に分析した。金融と経済成長に関する先行研究の多くは、金融発展が経済成長を促すと指摘している(包括的な文献サーベイとして、Popov (2018)を参照)。しかし、既存研究の多くは国レベルのデータに依拠しており、同一国内における地域間の金融発展の違いに着目した研究は限定的である。また、金融発展を機能別に分析した研究も多くない。本稿の特徴は、日本のデータを用いて、地域の金融発展をエクイティとデットに分けて計測し、それぞれの起業と成長への影響を分析した点にある。

地域金融の発展が起業活動を促進すると考えるのは自然であるが、必ずしも促進するとは限らない。たとえば、新たに設立された企業に対してエクイティを提供する代表的な金融仲介機関であるベンチャーキャピタルは、特定の地域に集積し、かつ高い成長が見込まれる一部の企業にのみ投資する傾向がある (Berger and Udell, 1998)。また、銀行等の預金取扱金融機関が多く所在する地域では、銀行・企業間関係が希薄化し、新規設立企業への融資が抑制される可能性もある (Petersen and Rajan, 1995)。さらに、既存顧客の利害を重視する銀行が、新規設立企業への融資をためらうかもしれない。これらの可能性を考慮すると、地域エクイティ、地域デットの発展が起業に与える影響は、実証的に検証すべき課題といえる。

本稿では、都道府県レベルの起業に関する変数(NEW:新規設立企業数、IPO:株式市場に上場した企業数、GROWTH:設立後5年以内の若年企業の売上高成長率、EMP0_19, EMP20_99, EMP100+:若年企業の規模別雇用シェア、ln EMP:若年企業の従業員数)を従属変数、また、投資事業有限責任組合数(EQUITY:地域エクイティの代理変数)、銀行店舗数(DEBT:地域デット)を主要な独立変数として、年・都道府県の2元固定効果を用いたパネルデータ推定を行った。主要な分析結果は以下のとおり。第一に、地域エクイティの発展は、新規設立企業数 (NEW) および株式市場に上場した企業数 (IPO) と正の相関がある。ただし、東京都を分析サンプルから除くと有意な関係がなくなることから、この結果は東京都に大きく依存していることが示唆される。また、売上高成長率 (GROWTH) とは有意な関係がない。第二に、地域デットの発展は、起業に関するさまざまな変数と統計的に有意な関係がない。第三に、地域エクイティの発展は、従業員規模が相対的に大きい若年企業のシェアと正の相関があり、地域エクイティが成長志向型の起業を後押ししている可能性が示唆される。

表 推定結果
表 推定結果
脚注:NEW:都道府県別の事業所数で割った新規設立企業数。IPO:都道府県別の事業所数で割った、当該都道府県に本社を置き、新興株式市場および主要株式市場に上場した企業数。GROWTH:東京商工リサーチ(TSR)に収録されている、都道府県別の設立後5年以内の企業を対象に、翌年の売上高合計を当該年の売上高合計で割り、1を引いた比率。EMP0_19:TSRに収録されている、都道府県別の設立後5年以内で従業員数が20人未満の企業数を、当該都道府県内の設立後5年以内の企業総数で割った比率。EMP20_99:TSRに収録されている、都道府県別の設立後5年以内で従業員数が20~99人の企業数を、当該都道府県内の設立後5年以内の企業総数で割った比率。EMP100+:TSRに収録されている、都道府県別の設立後5年以内で従業員数が100人以上の企業数を、当該都道府県内の設立後5年以内の企業総数で割った比率。ln EMP:TSRに収録されている、都道府県別の設立後5年以内の企業の従業員数合計の自然対数。EQUITY:都道府県の事業所数で割った、投資事業有限責任組合の数。DEBT:都道府県の人口で割った、都市銀行、地方銀行、第二地方銀行、信用金庫、信用組合、信託銀行の支店数の合計。コントロール変数には人口構成の変数、大卒比率、企業文化の代理変数、対数地価を採用し、年・都道府県の2元固定効果モデルを推定した。***, **, * はそれぞれ、統計的に1%, 5%, 10%有意であることを表す。

これらの結果が単なる相関にとどまらないことを確認するため、GMM (generalized method of moments) 推定や操作変数法による推定を行った。また、地域エクイティ、地域デットの測定誤差の可能性を考慮して、主成分分析も実施した。いずれの手法においても主要な結論は概ね維持されている。

本稿の結果から、地域金融の発展が起業に与える影響は、エクイティとデットで異なることを示している。また、起業の「数」と起業後の「成長」への影響は必ずしも一致しない。起業を通じた成長を促進する政策を検討する際には、どのような金融手段を通じて、どのようなタイプの起業を支援するかを明確にした政策設計が重要である。

参考文献
  • Berger, A. N., Udell, G. F., 1998. The economics of small business finance: The roles of private equity and debt markets in the financial growth cycle. Journal of Banking and Finance, 22(6–8), 613–673.
  • Petersen, M. A., Rajan, R. G., 1995. The effect of credit market competition on lending relationships. Quarterly Journal of Economics 110(2), 407–443.
  • Popov, A., 2018. Evidence on finance and economic growth. In: Beck, T., Levine, R. (eds.) Handbook of Finance and Development. Edward Elgar Publishing, pp. 63–104.