ノンテクニカルサマリー

自治体職員はどのようにEBPMを捉え、実践しているか?-EBPMに関する自治体横断調査より-

執筆者 伊芸 研吾(エビデンス共創機構)/梅谷 隼人(神戸大学)/小林 庸平(コンサルティングフェロー)/高橋 遼(早稲田大学)/中室 牧子(ファカルティフェロー)
研究プロジェクト 機能するEBPMの実現に向けた総合的研究
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

政策評価プログラム(第六期:2024〜2028年度)
「機能するEBPMの実現に向けた総合的研究」プロジェクト

近年、国や自治体ではEBPMに関する取り組みが活発化している一方で、実際の取り組みは局所的で、内容にバラつきが見られる。機能するEBPMの実現のためには、まずはその取り組みの現状を把握することが最初の一歩である。どのようにEBPMを捉え、実践しているのか。このプロセスに関するエビデンスを創出し、現在の取り組みが本来あるべき姿で実装されているかを検証することはEBPM自体をエビデンスベーストで進めるうえで欠かせない。

本研究では、全国21自治体の約3,700名の自治体職員を対象にWeb質問紙調査を実施し、「エビデンス」や「EBPM」に対する認識や実際の取り組み、エビデンス活用の実態について探索的に分析を行った。本調査の回答者は、調査に参加した自治体の全職員や全国の一般的な自治体職員よりもEBPMやエビデンス活用に関心が高い職員と考えられる。したがって、本研究の分析結果を自治体におけるEBPMの実態と一般化し解釈することはできないことに注意が必要である。本研究の分析結果は全国の自治体職員の中でEBPMなどへの関心という点で上位層の結果と解釈するのが妥当であるが、今後EBPMに関心を持ち、取り組みを始める自治体や職員がいずれ至る可能性のある結果とも捉えることができる。

分析の結果、「エビデンス」という言葉が幅広く解釈されており、研究論文が必ずしもエビデンスと捉えられていないことが分かった。また、事業内容の検討時にエビデンスと認識している情報以外にも多くの種類の情報を参考にしており、エビデンスと認識している情報はそのうちの一つに過ぎないということが分かった(表1参照)。これらの結果は、「エビデンス」の定義について国内でコンセンサスがなく、EBPMに取り組む立場や状況よって、その意味が多様に使われていることを示している。加えて、EBPMよりもエビデンスへの依存度を弱めた考え方であるEvidence-informed Policy Making(EIPM)が実際の自治体の現場で実施されていると捉えることができる。政策の有効性を一層高めるためには、エビデンスの質にも十分に意識を向け、政策効果の把握にどの程度有用であるかという観点から現在参考にしている情報を見つめ直すことが重要である。

表1 事業検討時に参考にされている情報とエビデンスの捉え方
表1 事業検討時に参考にされている情報とエビデンスの捉え方

「EBPM」についても、「エビデンス」と同様に、幅広く解釈されており、実際の取り組みと乖離していることが確認された(表2参照)。これは、EBPMの概念が必ずしも統一的に理解されていないことや、各組織の置かれた状況や課題に応じ、柔軟に運用されていることを反映していると考えられる。各自治体においては、実施している取り組みが目的達成に資するものであるかを継続的に点検し、自省する姿勢が不可欠である。さらに、自治体間の横断的な議論や情報共有の場を設け、EBPMの取り組みに関するメニューリストの作成や優先順位付けを行うことも有効であると考えられる。

表2 EBPMの実際の取り組みと捉え
表2 EBPMの実際の取り組みと捉え

本研究では、EBPMに対する認識を深く分析するために、EBPMの取り組みへの協力度を0から100点の自己申告方式で尋ねた。その結果、職員間でEBPMの取り組みへの協力度にバラつきがあることが確認された(図1参照)。職員間でエビデンスやEBPMに対する理解や認識にズレがある状況は、一体感を持ってEBPMを進めるうえで支障になり、一部の推進派による取り組みだけでは形骸化につながりかねない。推進派以外の、職員の大半を占める協力派や追随派、消極的な抵抗派が今後前向きにEBPMに取り組んでいくためには、一方的な押し付けにならないよう、適切な動機づけや取り組みを定着させる仕組みの導入、人事評価制度の見直しなど抜本的な組織改革を含めたさまざまな工夫が必要であろう。

図1 EBPMに関する取り組みへの協力度の分布
図1 EBPMに関する取り組みへの協力度の分布