ノンテクニカルサマリー

日本の産業別規制指標:計測エンジンの構築と実証的検討

執筆者 島村 勇太朗(TDSE 株式会社)/滝澤 美帆(学習院大学)/宮川 大介(早稲田大学)
研究プロジェクト 東アジア産業生産性
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

特定研究(第六期:2024〜2028年度)
「東アジア産業生産性」プロジェクト

各種の規制によって経済成長が阻害される可能性が指摘されてきた。例えば、企業の参入障壁を引き上げる形で規制が強化されることで、市場の競争度合いが減じられる結果、マクロレベルでの生産性成長が鈍化し、結果として経済成長が抑制される可能性がある。また、企業が退出に係る意思決定を行う際に重要となる解雇規制などの強化も、パフォーマンスの面で劣る企業が市場に滞留することを通じて同様のメカニズムを発現させる可能性がある(Hopenhayn & Rogerson 1993)。

経済成長と規制の強度に関するこうした議論を踏まえて、既に内閣府(2006)や中西・乾(2008)といった先行研究が、日本における規制の強度とその動態を捉える指標(規制指標)を構築している。以下に挙げる二点から、こうした取り組みを発展的に継続していく必要がある。第一に、2000年代におけるこれらの取り組み以降、規制指標の計測そのものが全く行われていないという点が挙げられる。この背景には、過去の取り組みにおいて開発された計測ツールがアップデート可能な形で一般に公開されてこなかったという事情もある。結果として、過去20年程度に亘る規制の変遷が生産性に代表される経済変数の動態とどのような関係を示しているのかが理解されていない。第二に、内閣府(2006)が構築した規制指標が、許認可等現況表に記載のある法令を網羅的に参照していないという点が挙げられる。許認可等現況表には規制の根拠として2000を超える法令がリストされているが、内閣府(2006)では、総務庁(2000)を参考にしつつ、そのうちおよそ300種類のみの法令を裁量的な判断のもとでアドホックに活用するに留まっている。こうした限定的な取り扱いに基づいて構築された規制指標では、規制の強度とその動態を捉えるという本来の目的を達成出来ていない可能性があることは自明だろう。

以上の問題意識を踏まえて、本研究では、内閣府(2006)が構築した規制指標に加えて、新たに複数の規制指標を考案し、これらを用いて最新時点までの許認可等現況表を基にした規制指標の計測を行った上で、この計測プロセスを第三者が検証しつつ利用することを可能とするために、計測コードを一般に公開する。図は、これらの指標の中でOECDが提供している規制指標(Nicoletti et al., 2001)と相対的に近しい動態を示す「平均規制指標」を三業種について描画したものである。OECDの規制指標以外の四系列(緩め、業種横断、厳しめ、総務庁)は、規制指標の構築に際して必要となる法令と業種のコンバータのバリエーションに対応している。

図1:本研究の平均規制指標とOECDのPMRの比較
図1:本研究の平均規制指標とOECDのPMRの比較

本研究では、これらの規制指標と経済産業研究所・一橋大学JIP2021 データベースから取得した七種類の産業-年レベルの経済変数との関係を前後一期及び三期のリード・ラグ構造に配慮しながら実証的に検討した。具体的には、機械学習手法の一種を用いることで、規制指標と各経済変数との間の重要な関係を推定した。推定結果から、第一に、マークアップ率が高い産業において、事後的に業種固有及び業種横断的な規制緩和が進む傾向が確認された。第二に、製造業と商業を個別に取り扱った分析から、これらの産業における規制緩和の進展後に、当該産業における資本と労働の質が改善しつつマンアワーが低下する傾向も確認された。以上の結果は、本研究で構築された規制指標が、産業-年レベルで計測された経済変数の動態を検討する上で有益な情報となることを示唆している。