| 執筆者 | 岡庭 英重(山形大学)/井深 陽子(慶應義塾大学)/丸山 士行(大阪大学)/殷 婷(研究員(特任)) |
|---|---|
| 研究プロジェクト | コロナ禍における日中少子高齢化問題に関する経済分析 |
| ダウンロード/関連リンク |
このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
人的資本プログラム(第六期:2024〜2028年度)
「コロナ禍における日中少子高齢化問題に関する経済分析」プロジェクト
日本における国際結婚の夫婦数は増加傾向にあり、国籍の組合せも多様化している(図1)。異なる文化的背景を持つ在留外国人の婚姻、出生、離婚を把握することは、彼らが日本の人口動態に与える長期的影響を理解する上で重要である。また国際結婚の成立や破綻の背景には、個人的要因だけでなく、社会的支援や制度設計の在り方が深く関わっている。国際結婚の離婚率の高さは、文化や言語、価値観、宗教、在留資格、経済的自立などの多様な社会的障壁を反映している可能性がある。これまでの理論的・実証的研究の多くは欧米諸国に焦点を当てており、国際結婚が著しく増加する日本や中国など東アジア社会におけるエビデンスは限定的である。特に日本において、夫婦の年齢、出身国、ジェンダー的な規範、文化の違いによる離婚リスクに関する理解は十分ではない。
本研究は、国内における日本人と外国人の夫婦に焦点を当て、離婚率の推移とその背景を記述的に捉えることを目的とした。総務省『国勢調査』及び厚生労働省『人口動態統計』を用いて、両調査で一貫した国籍データが収集可能な1995年から2020年を分析対象とした。国際結婚の離婚率は日本人同士の結婚に比べて高いことから、国別の変数を用いてこのメカニズムの解明を試みた。離婚率は、国勢調査年における夫婦数を分母とし、その後2年間の離婚件数を分子として計算することで、ある年に存在していた夫婦がその後2年間に離婚する確率として捉えた。
集計データを用いた二項ロジスティック回帰分析の結果、次の5点が明らかとなった。(1) 国際結婚は日本人同士の結婚よりも離婚率が有意に高いが、その差は時間の経過とともに縮小している(図2)。(2) 国際結婚と日本人同士の結婚における離婚率の差のうち、約2割は妻の年齢と夫婦の年齢差によって説明できる。(3) 妻が夫より年上の場合、または夫が10歳以上年上の場合に、国際結婚の離婚率が高くなる傾向がある。(4) 配偶者間の年齢差や出身国間のGDP差が大きいほど、離婚リスクが高い。(5) 一方、ジェンダー意識や文化的価値観の違いは、むしろ結婚の安定に寄与する可能性があることも示された。
これらの結果は、ホモガミー仮説や効率的分業仮説を部分的に支持するものであり、国際結婚における離婚リスクが文化的・経済的・制度的要因の複雑な相互作用によって形成されていることを示唆している。出身国間の文化的距離や価値観の違いは必ずしも個人同士の違いを表すものでない点を認識しつつ、文化的距離や価値観の違いをリスクと見なすのではなく、多様な家族が安定的に生活できる社会基盤を整える社会政策(言語・異文化教育、外国人配偶者の就業支援、多文化家族支援等)の充実が求められる。