執筆者 | 藤嶋 翔太(一橋大学)/酒井 高良(東京科学大学)/高山 雄貴(東京科学大学) |
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研究プロジェクト | 地方創生のためのエビデンスに基づく政策形成 |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
地域経済プログラム(第六期:2024〜2028年度)
「地方創生のためのエビデンスに基づく政策形成」プロジェクト
都市交通渋滞の外部コストを定量化し、効率的な政策設計へ
本研究は、都市交通における渋滞問題を構造的に分析し、渋滞による外部コスト(第三者に及ぼす負の影響)を推定する新たな方法を提案したものである。特に、ドライバーが自らのルート選択を通じて引き起こす混雑効果を明示的に考慮し、交通需要に応じた最適な料金設定(道路混雑料金(congestion pricing))の有効性を評価している。
道路混雑は、人口減少が進む日本においても依然として大きな問題であり、政策対応が求められている。近年、東京湾アクアラインにおいて2023年7月から社会実験として変動料金制が導入されたほか、ETC平日朝夕割引(東京・大阪近郊を除く)が実施されている。さらに、政府は2025年度より高速道路において区間・時間帯によって料金が変動する制度の導入を検討しており、混雑緩和に向けた取り組みが加速しつつある。これらの施策はいずれも、道路利用者に負の外部性を適切に負担させることを目指しており、そのためには外部性の大きさを定量的に把握することが不可欠である。本研究はこの課題に応え、政策設計に資する推定手法を提案するものである。
本手法では、交通ネットワーク上のルート選択を「進化的な戦略変更プロセス」としてモデル化し、交通量と所要時間の関係を表すBPR関数のパラメータを、理論モデルに基づく最尤推定により求めている。推定には、交通工学の分野で広く用いられている人工的な検証用ネットワーク(Sioux Fallsネットワーク)を用いた。
推定結果に基づき、各道路リンクに対して最適な通行料金を設定した場合、交通混雑の削減と経済厚生(利用者便益)の向上が安定して実現できることが確認された。
ここで重要なのは、推定誤差が政策評価に与える影響である。仮に推定されたパラメータの分散が大きい場合、設定される道路混雑料金も最適水準からずれ、交通ネットワーク全体としてのwelfare gain(厚生向上)が小さくなったり、場合によっては逆に総交通コストが増加してしまうリスクもある。したがって、推定されたパラメータに基づく道路混雑料金導入の下で、どれだけ安定的にwelfare gainが得られるかが、極めて重要な政策的意味を持つ。本研究では、推定誤差を考慮したブートストラップ解析を通じ、道路混雑料金導入後のwelfare gainの分布を評価した。その結果、すべてのサンプルにおいて交通コストの削減が達成され、推定精度が現実的なレベルであっても政策効果が安定して期待できることが示された。具体的には、総交通コストを約3.8%削減できる見込みが得られている。今後は、プローブ車両データやトラフィックカウンターデータを活用し、実際の都市交通網において本手法の適用と検証を進めることが期待される。
本研究の政策的含意をまとめると、以下のようになる。
政策的含意
- 道路混雑料金の全国的展開に向けた後押し:本研究は、区間・時間帯別の料金設定を裏付けるための定量分析手法を提供する。
- 柔軟な料金設計への応用:ルート選択行動を踏まえたアプローチにより、時間帯別、地域別のきめ細かな料金施策設計が可能になる。
