ノンテクニカルサマリー

複数製品企業の下での国際貿易

執筆者 大久保 敏弘(ファカルティフェロー)/リカード フォースリッド(ストックホルム大学)
研究プロジェクト グローバル経済が直面する政策課題の分析
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

貿易投資プログラム(第六期:2024〜2028年度)
「グローバル経済が直面する政策課題の分析」プロジェクト

世界経済が混迷を極める中、個々の企業はどう製品戦略を立てるのか、具体的にはどう国際化し、どう製品領域を決めるのかが大きな課題になっている。輸出や直接投資を行うのかといった国際化戦略と同時に重要なのはどのような製品分野を領域として、どの製品に生産を注力するのかである。製品戦略や製品部門の再構成を迫られる企業も多い。国際化する企業ほど国際競争に耐えるべく、製品の領域を狭め、特化する可能性がある。一方で、このような製品への特化は昨今の不確実性の高い経済ではリスクが高く、逆に狭めない可能性もある。あるいは構成比率を変えつつも、さらに新しい分野を開拓する可能性がある。例えば、家電を中心にしてきた企業が得意の家電に絞り込み国際化を進めるのではなく、テレビやゲーム、デジタルコンテンツなど新たな分野に手を伸ばすのである。昨今、黒字経営であってもこのような製品戦略の見直しや再構成をする企業が大企業を中心に増えているようである。

実際、日本経済全体でみるとどのような傾向になっているのだろうか。国際貿易の分野では企業の国際化に関する研究は多い。しかし、国際化に絡む製品戦略に関する研究は極めて少ない。本研究では企業の国際化と製品数を中心に理論・実証研究を行った。

図1は企業の生産性と国際化を見たものである。横軸には生産性をとり、国内企業(=非国際化企業)、輸出企業、海外直接投資企業に関して生産性の分布を見ている。既存研究でよく知られるように生産性の高い企業ほど、海外直接投資を進め、その次に高い企業は輸出企業として輸出を行う。生産性の低い企業は国内企業として国内販売に特化する。これらの分布は3つの山になりきれいに並んでおり、従来から言われているような、セレクションが働き、「自己選抜効果」のような現象になっている。次に図2は企業の国際化と製品数を見たものである。横軸に製品数をとり、国内企業、輸出企業、海外直接投資企業に関して製品数の分布を見ている。海外直接投資企業、輸出企業、国内企業の順に製品数が少なくなることが分かる。なお、本論文内では精緻な計量分析を行っているが、推計においてもクリアな結果が出ている。

このように企業が国際化する際には、製品数を絞り込むというよりも製品数を増加させることが分かる。また本論文で明らかになったのは貿易自由化においては輸出企業は国内企業よりも製品数を伸ばし、生産性の高さを背景に、国際化による製品数の増大は国際化している企業ほど大きくなる。国内企業ほど製品数を伸ばすことができない。逆に輸送費が高騰し、関税も引きあがる今日のような状況では、企業の国際化は退潮するが、輸出企業ほど製品を絞り込んで大きく減らす可能性がある。国内企業は逆に製品数を増加させ製品領域を広げる可能性がある。

図1:生産性と企業の国際化
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図1:生産性と企業の国際化
図1:生産性と企業の国際化
図2:企業の国際化と製品数
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図2:企業の国際化と製品数
図2:企業の国際化と製品数