執筆者 | 渕 圭吾(神戸大学) |
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研究プロジェクト | 現代国際通商・投資システムの総合的研究(第VI期) |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
貿易投資プログラム(第六期:2024〜2028年度)
「現代国際通商・投資システムの総合的研究(第VI期)」プロジェクト
本DPは、主としてアメリカ発のデジタル・プラットフォーム企業をターゲットとして、アメリカ以外の有力国の多く(日本を除く)が導入を検討しているデジタル・サービス税(DSTs)について、その導入の背景と、租税条約との関係についての検討を行った。なお、DSTsの繁茂を抑えるべく、DSTsに代わるものとして下図の第一の柱が構想されている。
まず、導入の背景に関しては、所得税・資産税・消費税から成る伝統的な租税制度だけを視野に入れるのではなく、それ以外の種類の租税をも考える必要があるかもしれない、ということを述べた。これは、インターネットを通じて、財や役務を外国の当事者から直接購入し消費することができる、という事象が普遍化してきたことによる。DSTsという新しい種類の租税の登場は、その限りでは必然だったかもしれない。
しかしながら、経済社会が変容したからといって各国が好き勝手に新しい租税を設けられると考えるべきではない。少なくとも、DSTsは、上記のような企業にその活動の規模に応じて課されるものである以上、一種の所得課税であると評価されるべきだし、そうだとすると、既存の租税条約に違反すると言わざるを得ない。近年、有力な論者がDSTsは租税条約に違反しないと主張しているけれども、その論拠は薄弱である。
DSTsを導入するという安易な選択肢を取らず、しかも、国際協調に力点をおいて、今後のあるべき租税制度を建設的に議論しようとしている日本の立場は、高く評価できる。今後、既存の租税条約網との整合性に留意しつつ、漸進的に国際租税制度の改革を進めていくべきである。