執筆者 | 森川 正之(特別上席研究員(特任)) |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
その他特別な研究成果(所属プロジェクトなし)
1. 趣旨
新型コロナウイルス感染症(以下、「新型コロナ」)を契機に、世界各国でテレワーク-主に在宅勤務-が急拡大し、活発に研究が行われている。日本でもいくつかの調査機関や研究者が労働者や企業に対して独自のサーベイを行い、それらに基づいてテレワークの実態を分析してきた(筆者自身の研究として、森川, 2023, 2024; Morikawa, 2022, 2023, 2024)。
しかし、これらの研究で用いられたサーベイ・データはサンプル数が限られており、経済全体をどの程度代表しているのかは議論の余地がある。特に、インターネット調査の場合、回答者がIT利用度の高い労働者にバイアスを持っている可能性がある。また、産業や職業を細分化して集計・分析するのは無理がある。「就業構造基本調査」(総務省)は、2022年調査においてテレワークに関する詳しい設問―テレワーク実施の有無・頻度、テレワーク実施の場所―を設けた。本稿では、この大規模なデータを利用して日本におけるテレワークの実態を概観する。
2. 結果の要点
結果の要点は以下の通りである(表1参照)。第一に、就労者のテレワーク実施率は19.5%、在宅勤務実施率は18.3%である。つまりテレワーカーの9割以上は在宅勤務者であり、分析に当たって両者を区別しなくても結果に大きな違いは生じない。第二に、テレワーク実施者のテレワーク実施頻度は平均35.0%である。結果として、マクロ経済全体の労働投入量のうちテレワークによる労働投入のシェアは約7%である。第三に、高学歴者(特に大学院卒)、大企業の労働者、東京圏の労働者はテレワーク実施率、テレワーク集約度が高く、これは他の個人特性を考慮しても変わらない。産業では情報通信業、職業では専門的・技術的職業でテレワーク実施率、テレワーク集約度が高い。さらに細分化して見ると、IT系の産業・職業、IT利用度の高いサービス産業・職業でテレワークの利用度が高い(表2参照)。第四に、男性の方が女性よりもテレワーク実施率が10%ポイント前後高いが、他の個人特性をコントロールすると男女差は1%ポイント以下に縮小する。第五に、テレワーカーは他の観測可能な特性をコントロールした上で30~40%賃金が高いが、テレワーク頻度が高いほど賃金が高いという関係はない。
3. 含意
これらの結果の多くは、これまでのサーベイ・データに基づく分析と整合的である。ただし、在宅勤務実施頻度については、インターネット調査による場合はいくぶん高めの数字となる可能性があることに注意が必要である。
なお、賃金が高い雇用者ほどテレワークを行う傾向があるという結果は、テレワークに仕事と私生活の両立、通勤負担の軽減といったアメニティ価値があることを考慮すると、学歴、雇用形態、企業規模による処遇格差が、賃金だけを比較するよりも大きいことを示唆している。労働市場における格差を考える際には、本来、賃金以外の「働き方」も考慮する必要がある。なお、賃金と違って労働者のアメニティは課税対象にならないので、所得税率が高くなると賃金引上げではなくアメニティ向上(「働き方」の改善)という形での報酬が多くなるかも知れない。
- 参照文献
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- 森川正之 (2023), 「在宅勤務の生産性ダイナミクス」, 『経済研究』, Vol. 74, Nos. 1-2, 026423.
- 森川正之 (2024), 「ポストコロナの在宅勤務の動向:企業及び就労者へのサーベイ」, RIETI Discussion Paper, 24-J-010.
- Morikawa, Masayuki (2022), “Work-from-Home Productivity during the COVID-19 Pandemic: Evidence from Japan,” Economic Inquiry, Vol. 60, No. 2, pp. 508-527.
- Morikawa, Masayuki (2023), “Productivity Dynamics of Remote Work during the COVID-19 Pandemic,” Industrial Relations, Vol. 62, No. 3, pp. 317-331.
- Morikawa, Masayuki (2024), “Productivity Dynamics of Work from Home: Firm-Level Evidence from Japan,” Journal of Evolutionary Economics, forthcoming.