執筆者 | 西村 和雄(ファカルティフェロー)/八木 匡(同志社大学) |
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研究プロジェクト | 日本経済社会の活力回復と生産性向上のための基礎的研究 |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
人的資本プログラム(第五期:2020〜2023年度)
「日本経済社会の活力回復と生産性向上のための基礎的研究」プロジェクト
物事をイメージ化する能力は人によって違いがある。例えば、初めて会った人の顔を覚えられる人がいれば、覚えられない人もいる。また、心の中で自分に話しかけるセルフ・トークに代表されるように言語を使いこなすことが得意な人もいれば、奥行きを持つ空間的な認知能力が高い人もいる。これら3つの能力(イメージ能力、言語能力、空間認知能力)には個人差があり、本研究では、このような個人差が職業の選択、仕事で使われる能力、学校での教科の得意・不得意などと関連するかどうかを分析した。
職業の選択について見ると、芸術系等のクリエイティブな専門職に従事する人は、空間認知能力が高く、教育・研究系専門職に就く人は、空間認知能力と言語能力が高いことが分かった。
仕事で使われる能力である立体感覚、創造力、統計等のデータ解析能力などは、空間認知能力とイメージ能力に、論理的思考とIT技術などは、空間認知能力と言語能力の両方に、統計的に有意な正の関係性を持っていることが分かった。
具体例として、将棋・囲碁の得意度を、空間認知能力、イメージ能力、言語能力によって説明する重回帰分析を行うと、図1の結果を得た。縦軸は重回帰分析によって得られた標準化係数値であり、得意度に与える影響力の強さを示している。図から分かるように、将棋・囲碁の得度度には、空間認知能力が最も強く影響している。論文の中では、地図を読む能力の得意度についても分析を行い、空間認知能力が影響力を持っていることを示している。
これは、学校での教科にも当てはまる。本研究では、性質が近いデータ同士を集団(クラスター)にまとめて、データを分類するクラスター分析を用いた。図2は、理科と英語の得意度について、3つの能力が異なるグループごとに比較したものである。数学は理科と、国語は英語と同様な結果を得ている。
ここでは、空間認知能力、イメージ能力、言語能力の強さの組み合わせにより回答者を5つのグループにわけて、その得意・不得意の教科を調べた結果を示している。図の一番左には、空間認知能力とイメージ能力が強いが言語能力が弱い「空間イメージ強言語弱」のグループが位置している。次に空間認知能力が強いがイメージ能力が弱い、しかし言語能力がやや高い「空間強イメージ弱言語やや強」のグループが並んでいる。3番目には、空間認知能力が弱いが、イメージ能力がやや強く、言語能力が弱い「空間弱イメージやや強言語弱」のグループ、4番目には、空間認知能力、イメージ能力共に弱く、言語能力がやや高い「空間イメージ弱言語やや強」のグループ、5番目には、空間認知能力がやや弱く、イメージ能力が非常に弱く、言語能力が非常に強い「空間やや弱イメージ非常に弱言語非常に強」のグループの順番に並んでいる。
空間認知能力がすべての科目で最も得意度を高めているが、特に理科と数学において空間認知能力が得意度を高める効果が大きかった。国語と英語では、理科や数学に比べてイメージ能力や言語能力が得意度を高める効果が大きいことが分かった。
以上の分析結果は、能力的な優位性をそれぞれの専門に活用するための有益な情報を与える。それによって、職業訓練、学校教育等をより効果的にすることも可能となるであろう。