ノンテクニカルサマリー

特許情報とウェブコンテンツの対応関係を用いた日本、米国、中国のイノベーションプロセスに関する定量分析

執筆者 元橋 一之(ファカルティフェロー)/ZHU Chen(東京大学)
研究プロジェクト デジタルイノベーションモデルに関する研究
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

イノベーションプログラム(第六期:2024〜2028年度)
「デジタルイノベーションモデルに関する研究」プロジェクト

国レベルでのイノベーションのパフォーマンスはさまざまな科学技術指標によって分析されてきているが、論文や特許情報といった個別の指標の比較が中心で、技術(インプット)と新商品(アウトプット)の関係(イノベーションプロセス)に関する定量的な比較分析は行われてきていない。また、技術と産業の関係については、Technology Industry Concordance Matrixが作成されているが、この手法は情報の粒度が技術分類や産業分類といった既存分類の制約を受けることから、国間定量比較への適用には限界がある。本研究においては、企業レベルの特許テキストデータ(技術情報)と企業のウェブサイトのコンテンツから抽出した製品関連キーワード情報(製品情報)を活用し、テキスト(技術)→テキスト(製品)の関係を示す機械学習モデルを開発することによって、技術→製品の変換プロセス(イノベーションプロセス)に関する国際比較を行った。

具体的には、日本、米国、中国の3か国における上場企業の特許情報及び製品情報(企業のウェブページ情報から機械学習モデルで製品キーワードを抽出したもの)を活用して、国別(3か国)×企業タイプ別(新興企業、既存国内企業、既存国際企業の3タイプ)の9種類のイノベーションプロセスに関する機械学習モデルを推計した。次にこれらのイノベーションプロセスを国別、産業別、企業タイプ別に定量的に比較する手法を開発し、その手法を用いて実証分析を行った。

その主な結果は以下のとおりである。

  • 国別の比較においては、日米の違いは、日中あるいは米中の違いより比較的小さいことを確認した(図1)。また、企業タイプごとの国間比較においては、国際的な(海外子会社を有する)企業においてイノベーションプロセスの国間の違いが最も小さいことを確認した。国間の経済システムやルール(経済制度)の違いがイノベーションプロセスにも影響を及ぼすことを確認した。
  • 新興企業と成熟企業のイノベーションプロセスの違いについては、国間でその産業別分布が大きく異なることが分かった。その一方で、成熟企業のイノベーションプロセスの違いは、国間でその産業別分布に大きな違いがなく、産業特性が新興企業に及ぼす要因について特に国間でその内容が異なることを確認した(図2及び図3)。

これらの結果は、イノベーションと経済制度に関する経済理論(日米が近く、中国は異なる)やプロダクトライフサイクル理論(新興企業は異質性が高い、企業の成熟によって同質性が高まる)から導かれる仮説に合致するものであり、イノベーションプロセスの定量的な比較分析を行うための手法としての妥当性が検証された。本分析においては3か国の比較にとどまっているが、本手法をより多くの国に展開することによって、イノベーションプロセスの国別違いをもたらす制度的要因について、より理解が深まることが期待できる。

図1:企業タイプ別国間の違い
図1:企業タイプ別国間の違い
図2:成熟企業の国間の違い(産業別)/図3:国ごとの新興企業と成熟企業の違い(産業別)
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図2:成熟企業の国間の違い(産業別)/図3:国ごとの新興企業と成熟企業の違い(産業別)