ノンテクニカルサマリー

電子商取引の進展による地域消費構造の変容と地域経済への影響

執筆者 石川 良文(南山大学)/中村 良平(ファカルティフェロー)
研究プロジェクト 地方創生の検証とコロナ禍後の地域経済、都市経済
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

地域経済プログラム(第五期:2020〜2023年度)
「地方創生の検証とコロナ禍後の地域経済、都市経済」プロジェクト

我が国のB to C-EC市場(消費者向け電子商取引)は、2013年の11兆1,660億円からコロナ禍を挟む2021年のわずか8年間で、2倍近くの20兆6,950億円に達した。一方で、日本の人口は年々減少し、特に地方部において人口減少が著しく、それに伴い小売店舗も減少している。小売店舗が減少しインターネットによる購買が増えれば、地方の消費需要は域外に漏出し、それが更に当該地域の地域経済循環に悪影響をもたらす。事実、インターネットによる販売額は東京都、大阪府などを含む上位5県で日本全体の6割にも上り、インターネットによる販売が少ない地域から消費がこれらの地域に漏出している(図1)。地域で稼いだ所得を元に当該地域内で消費すれば、地域経済循環により地域経済は潤うが、地域内での購買率にはどのような規定要因があるだろうか。本研究の分析結果によれば、地域内での購買には、当該地域に所在する小売業の売り場面積、老齢人口の割合、隣接市区町村までの距離、当該地域の可住地面積が影響しており、売場面積が減少すると地域内での購買率が減少する一方で、高齢者が相対的に多い地域では域内購買率は高まることが示された。インターネットによる購買率については、当該地域に所在する小売業の売場面積、生産年齢人口(すなわち働く世代)の割合、隣接市区町村までの距離が影響していることが判明し、当該地域で売場面積が減少するとインターネットの購買が増加し、働く世代が相対的に多い場合もインターネットによる購買が多くなることが示された。これらのことから比較的働く世代の割合が高い地域において小売店舗が減少すると、せっかく所得を稼いでも他地域の小売店舗やインターネットによる購買が増加し、大きな消費の漏出が生じることが懸念される。但し、小売店舗面積の減少はインターネットによる購買の増加より、他地域の小売店舗での購買の大きな増加をもたらす。インターネットによる購買は働く世代が多い地域の方が影響が大きいと言える(表1)。

働く世代が相対的に多くなった場合、インターネットによる購買が増加し地域からの消費の漏出は大きくなる。その影響の度合いを愛知県瀬戸市を事例としてシミュレーションすると、直接・間接の影響で2億5,887万円、所得にして約1億円のマイナスの影響となる。インターネットによる購買は益々増えることが予想されることから、消費の漏出による地域経済の疲弊を避けるためには、地方部での小売業のインターネット販売の促進が必要である。

図1 インターネットによる販売額の都道府県別割合
図1 インターネットによる販売額の都道府県別割合
出所)商業統計(2014)より著者作成
表1 シナリオ別の購買率変化
表1 シナリオ別の購買率変化
表2 生産年齢人口割合が10%増加しインターネットによる購買が増加した際の経済影響(瀬戸市の場合)
表2 生産年齢人口割合が10%増加しインターネットによる購買が増加した際の経済影響(瀬戸市の場合)