ノンテクニカルサマリー

東アジア上場企業(EALC)データベースの作成とTFP上昇率の比較

執筆者 深尾 京司(ファカルティフェロー)/乾 友彦(ファカルティフェロー)/金 榮愨(専修大学)/権 赫旭(ファカルティフェロー)/張 紅詠(上席研究員)
研究プロジェクト 東アジア産業生産性
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

産業・企業生産性向上プログラム(第五期:2020〜2023年度)
「東アジア産業生産性」プロジェクト

2008年における世界金融危機後に、世界経済の経済成長率が減速した。この成長率の減退はTFP(全要素生産性)上昇率の減退や資本投入の抑制によってもたらされたことが指摘されている。日本、中国、韓国の上場企業(製造業)のTFP上昇率を2000年から2018年の期間において比較すると、日本企業のTFP上昇率は、世界金融危機後、一時的に減退するものの、概ね期間を通じて堅調であり、TFPは2018年においては2000年の水準を10%上回る水準となった。中国企業は世界金融危機によるマイナスの影響もあまりなく、この期間において一貫として堅調に推移している。しかしながら、その上昇率は日本企業に比べて必ずしも高くない。その一方で韓国企業のTFP上昇率は、世界金融危機以前から停滞しており、金融危機後は更に減速している。2018年におけるTFPの水準は、2000年における水準を5%下回る。

日本、中国の製造業企業のTFP上昇率が堅調なのは、主に企業内におけるTFP上昇率が堅調なことに基づく。逆に韓国の製造業企業のTFP上昇率が停滞しているのは、この企業内におけるTFP上昇率が大きく低下していることによる。

日本の製造業のTFP上昇率を「JIP2023」(経済産業研究所・一橋大学)によってみると、2000年から2010年において年率平均が1.96%であったものが、2010年から2020年においてコロナの影響はあるものの、0.85%に大きく減速している。製造業の上場企業のTFP上昇率は堅調であることから、大企業の堅実なTFP上昇率が中堅、中小企業にスピルオーバーするような方策を検討する必要がある。中国の製造業のTFP上昇率は堅調である一方で、非製造業及び国有企業のTFP上昇率は低迷しており、非製造業と国有企業におけるTFPを上昇させることが政策的な課題である。韓国の製造業の企業内のTFP上昇率は低迷しているが、その要因を本分析では明確にすることが出来なかった。そこで、今後はTFP上昇率低迷の要因を明らかにし、そのうえで必要な対策を考察することが求められる。

図:日本、中国、韓国の上場企業のTFPの比較(製造業、2000年を1とした指数)
図:日本、中国、韓国の上場企業のTFPの比較(製造業、2000年を1とした指数)