ノンテクニカルサマリー

自動化資本をめぐる国際租税競争

執筆者 加藤 隼人(大阪大学)/Jonas LOEBBING(LMU Munich)
研究プロジェクト 人手不足社会における外国人雇用と技術革新に関する課題の実証研究
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

人的資本プログラム(第五期:2020〜2023年度)
「人手不足社会における外国人雇用と技術革新に関する課題の実証研究」プロジェクト

問題意識

自動化技術(ロボット・人工知能など(注1))の進展は、自動化可能な仕事に従事する労働の需要を低下させる一方で、効率化を通じて生産が拡大し自動化されていない仕事に従事する労働の需要を高める。前者は労働置換効果または雇用代替効果と呼ばれ、後者は生産性向上効果または単に生産性効果と呼ばれる(森川, 2018; 鶴, 2021)。労働置換効果が生産性効果を上回り、労働需要および賃金を低下させるのではないかという懸念が近年高まっている。近年の自動化技術の発展が歴史上の他の技術進歩と異なる点は、それが急速なグローバル化と同時進行している点にある(Baldwin, 2019(注2))。グローバル化にさらされた各国の政府は、自動化技術の進展がもたらす労働者への悪影響を課税政策によって抑制することができるのだろうか。

分析結果

こうした問題意識にたち本研究では、労働・労働と代替的な自動化資本・労働と補完的な非自動化資本を組み込んだ経済において、労働者への再分配を重視する各国政府の最適な課税政策を分析した。課税政策およびそれが労働所得・資本所得に与える影響は、国際的な資本移動が可能かどうかで大きく変わることがわかった(表を参照)。国際的な資本移動が不可能、すなわちグローバル化以前は、企業に対する労働課税(社会保障や事業所税・従業者割など)を下げて資本課税(固定資産税や事業所税・資本割など)を上げることで、自動化技術の進展がもたらす資本収益の増加分を労働者に分配することができる。しかし国際的な資本移動が可能、すなわちグローバル化以後は、こうした福祉国家的な目標を達成することができない。資本課税の低い外国に資本が逃避するのを避けるために、資本課税を上げることができないからである。

表:自動化技術の進展が与える影響
表:自動化技術の進展が与える影響

含意

グローバル化された世界では、各国政府が移動可能な資本をめぐって競争するために、自動化技術がもたらす労働置換効果を打ち消すような福祉国家的な課税政策をとることができない。自動化が労働所得へ与える悪影響を抑制するためには課税政策は有効ではなく、その他の手段、例えば資本移動のある程度の規制などを検討すべきである(注3)。

脚注
  1. ^ 自動化技術のより精緻な分類については、鶴(2021)を参照。
  2. ^ Baldwin (2019) は、グローバル化とロボット化の同時進行をグロボティクス(globotics)と呼んでいる。
  3. ^ 本研究で課税以外の具体的な政策を検討しているわけではない。今後の課題としたい。
参考文献
  • 鶴光太郎(2021).『AIの経済学 「予測機能」をどう使いこなすか』, 日本評論社
  • 森川正之(2018).『生産性 誤解と真実』, 日本経済新聞出版社
  • Baldwin, Richard (2019). The Globotics upheaval: Globalization, robotics, and the future of work, Oxford University Press