ノンテクニカルサマリー

政治家に期待されるリーダーシップ像の男女差

このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

融合領域プログラム(第五期:2020〜2023年度)
「先端技術と民主主義:技術の進展と人間社会の共生を目指して」プロジェクト

政治家に期待するリーダーシップ像は男女の間で異なるだろうか?ビジネス組織におけるリーダーシップ・スタイルに関する既存研究によれば、男性リーダーは目標達成を重視するタスク志向のアプローチを、女性リーダーは参加型の意思決定を重視する関係志向のアプローチを採用する傾向にあるとされる。本研究では、日本において有権者と選挙で選ばれた地方政治家を対象としたサーベイを実施し、理想的とされる政治家のリーダーシップ像について、ビジネスリーダーの場合と同様に、男女の間で認識や選好が異なっているかどうかを検証した。さらに、地方政治家を対象としたサーベイでは、彼らの議会内ネットワークについても検証し、そこにリーダーシップ・スタイルに対する選好を反映する形で男女差が存在しているかどうかを探った。

有権者調査については、2014年12月にオンライン調査を実施し、全国各地の1400人余りの有権者から回答を得たものである。地方政治家については、調査の回収率を上げるために東北地方に焦点を当て、(福島県を除く)東北各県からそれぞれ無作為に抽出した2つの小選挙区に存在する市町村議会の議員を対象に、2015年1月から4月にかけて東北大学を拠点として郵送調査を実施した。その結果、734人の議員から回答を得たものである(回収率44.1%)。それぞれの調査において、政治家にとって重要と考えられる以下の4つのリーダーシップ・スタイルについて、より重要度の高い順に並べてもらった。4つのうち、前者2つがタスク志向型、後者2つが関係性志向型のスタイルである。

洞察力:明確なビジョンを持ち、先見の明があること
説得力:自分の立場について、相手を納得させることができる
仲裁力:意見の違いを仲裁し、問題を解決することができる
聞く力:周囲の様々な意見に耳を傾け、謙虚に話を聞く

重要度が一番高いとされたものを4点、一番低いとされたものを1点として換算し、それぞれのスタイルについて、その平均値を示したのが下記の図である(縦軸は得点を示す)。灰色が有権者調査、黒色が地方政治家調査の結果を示している。

図

有権者・地方政治家ともに、「洞察力」と「聞く力」の2つの平均点が総じて高い傾向を示した。有権者と地方政治家の回答結果に統計的に有意な差が見られたのは、「聞く力」と「仲裁力」であり、前者については地方政治家の方が、後者については有権者の方が、より高い得点を与える傾向が見られた。

続いて回答結果に見られる男女差について検証するために、重回帰分析を行った。その詳細な結果についてはDP本文に譲るが、大まかにまとめると、ビジネス組織に焦点を当てた既存研究の知見と同様に、男性有権者は女性有権者よりも目標達成を重視するタスク志向の政治リーダーを支持する傾向があることが明らかになった。逆に、女性有権者はアクター間の関係性を重視し、参加型の意思決定を志向するリーダーをより好む傾向が見られた。さらに同様のパターンが、選挙で選ばれた地方政治家の間にも観察された。ただ興味深いことに、彼らの所属政党の影響を考慮に入れると、これら政治家らの間に見られた男女差は、ほとんど無視できるほど小さくなった(つまり、一見すると男女の回答に差があるように見えた結果は、彼らが所属する政党による違いによって説明された)。さらに、それぞれの政治家に彼らの議会内ネットワークの規模や密度について質問した結果を重回帰分析したところ、そこにも男女差は見られなかった。つまり、地方議会において、必ずしも女性議員のほうが男性議員よりも広範で複雑な議員間ネットワークを構築しているわけではないという結果が示された。

これらの結果は、リーダーシップ・スタイルの選好をめぐる男女差が、議会におけるより広範な党派間の違いの中に包含されている可能性を示唆している。これは、政党が女性(男性)有権者の共感を得やすいと思われる選好と所属候補者のリーダーシップ・スタイルを一致させることで、より多くの得票を得ようとする選挙戦略に起因している可能性がある。また、有権者は候補者についてジェンダー・バイアスを抱いているかもしれないが、候補者の所属政党が発するシグナルは、選挙での候補者評価において、そのようなステレオタイプの影響を和らげる可能性があることも示唆していると言えるかもしれない。