執筆者 | 浜野 正樹(早稲田大学)/大久保 敏弘(慶應義塾大学) |
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研究プロジェクト | 東アジア産業生産性 |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
東アジア産業生産性プログラム(第五期:2020〜2023年度)
「産業・企業生産性向上」プロジェクト
近年、先進国を中心に特定の製品をターゲットにした製品レベルの補助政策が活発化している。例えば、経済安全保障関連では特定の製品に対して資源確保などを目的に保護や支援をする。諸外国ではコロナ後の経済安定化のため、特定製品の開発に対してR&D補助金を出している。このような一連の政策は製品レベルでの生産に大きく影響する。既存企業は生産を増加させたり、新規参入が促される。しかし、それだけではない。マクロ的な影響は少なからず受けており、景気変動やマクロ政策の影響は大きいだろう。したがって、このような製品レベルの政策の有効性は定かではない。特に製品間の違いは大きいだろう。そこで本論文では「工業統計調査」(経済産業省)及び「経済センサス」(総務省・経済産業省)の工場製品レベルのデータを用い、2,000以上の製品に関して分析した。さらにDSGEモデルにてメカニズムを明らかにした。特にマクロ景気循環とミクロレベルの工場の製品生産の変化の相関を見る。
図1は工場製品レベルでの生産の変動を見たものである。左は景気変動との相関を、右は生産の標準偏差を2,000以上の製品についてヒストグラムにした。概ね多くの製品は正の相関を持つ。2桁産業レベルで色付けをしている。機械産業(濃い赤色)を中心に正の高い相関があり標準偏差も高い。食料品・飲料産業(緑色)などの消費財は景気変動と正の相関であるものの、その相関は低く標準偏差も低い。
また図2では、個々の製品の製造業全体に占める割合とGDP変動との相関(左図)および製品生産の標準偏差(右図)をプロットした。製造業に占める割合の大きい製品(機械産業など)ほど、景気変動との相関が高く、製品生産の標準偏差は小さくなることが分かる。つまり生産シェアが大きい製品ほどマクロ変動と相関が高くなる。さらに論文では製品の生産ラインを停止したり新規に生産を始める傾向は弱いことも分かった。
食品・飲料などの消費財では一般に景気変動の影響は少なく、常に財を供給している。一方で機械産業、特に機械部品などは景気変動との相関が大きい。特に中間財、あるいはグローバルバリューチェーンの一角を占めるような自動車部品や半導体部品などは今日の日本の製造業全体で大きなシェアを占めているが、マクロ変動と大きく相関する傾向にある。今日、経済安全保障で注目されているような財はマクロ変動と相関しやすいため、単に特定の財の状況を考慮してピックアップし施策をするのではなく、景気変動やマクロ政策など幅広い視点を考慮して慎重に考える必要がある。