ノンテクニカルサマリー

対内直接投資、取引、国内企業のパフォーマンス:日本の企業間取引データによる分析

執筆者 伊藤 匡(学習院大学)/田中 鮎夢(リサーチアソシエイト)
研究プロジェクト 直接投資の効果と阻害要因、および政策変化の影響に関する研究
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

貿易投資プログラム(第五期:2020〜2023年度)
「直接投資の効果と阻害要因、および政策変化の影響に関する研究」プロジェクト

外国企業が受入国の国内企業に与える潜在的なプラスの影響を見越して、政府は対内 FDI (外国直接投資) の誘致に取り組んでいる。外国企業が受入国に与える影響には、複数の側面がある。負の側面としては、対内直接投資が一部の国内企業を締め出す可能性がある。正の側面としては、グリーンフィールドの対内 FDI が雇用を創出する。また、対内直接投資は、優れた技術や知識をホスト国にもたらす可能性があり、それが国内企業に伝播する可能性がある。対内直接投資企業がより良い(低価格で高品質の)中間財を国内企業に供給する可能性もある。

本稿では、対内直接投資が取引を通じて国内企業に与える上記の正の効果に焦点を当てる。外国企業は、国内企業から商品を購入し、国内企業に商品を販売することにより、ホスト国経済と結びついている。したがって、国内企業との取引関係を分析することにより、外国企業がホスト国の経済に与える影響を特定することができる。対内直接投資に関する既存の膨大な量の研究では、データの制約により、主に産業レベルでの分析に留まっていた。同限界を克服するべく、本稿では、網羅的な企業間取引データを企業レベルのミクロデータと照合することにより、外国企業と国内企業の関係を直接分析することを試みた。33%超の外国人所有比率にて外国企業を定義した場合、外国企業の数は未だに多くはないものの徐々に増加し、比率も上昇している(表1参照)。また、取引先外国企業数及び比率も徐々に増加している(表2参照)。また、外国企業との取引を開始した企業の数も増加している(表3参照)。これら外国企業との取引が国内企業の業績に与える影響を分析するにあたり、本稿では業績指標として企業の売上高、雇用、従業員一人当たり売上高を採用した。本稿は、イベントスタディデザインやStaggerd DID推定など最新の因果推論手法を採用した。イベントスタディとは、政策や外部からのショック(処置と呼ぶ)(本稿では外国企業との取引開始)などの影響(本稿では当該国内企業の業績)を同事象が発生した前後での差異にて捉える方法であり、またStaggerd DID推定はこれらの事象が全ての観測値に対して同一時期に発生せず観測値によって異なる時期に発生する場合をより正確に捉えた手法である。分析の結果、地元企業の業績と外国企業との取引の間に統計的に有意な関係がないことが示された。表4は、取引開始の企業業績への影響を分析した結果であり、取引開始前-5期から-1期に対して、取引開始後+1期から+5期にかけて、上段の外国企業からの調達(procure)については雇用と売上高について若干の正の効果が見られるが生産性については効果は見られず、また下段の外国企業への販売(sales)については正の効果は観測されない。

表1:外国企業の数:2007年から2018年
表1:外国企業の数:2007年から2018年
出典: 企業活動基本調査より著者作成
表2:取引先外国企業数
表2:取引先外国企業数
出典: 企業活動基本調査より著者作成
表3:外国企業との取引開始
表3:外国企業との取引開始
表4:外国企業との取引開始が国内企業に与える影響
表4:外国企業との取引開始が国内企業に与える影響
注: ATT (average treatment effect of the treated, 平均処置効果) は Callaway and Sant'Anna (2021)に基づいて推定。ATTの点推定値は、前処置期間は丸印、後処置期間は四角印で示されている。マーカーを囲むバーは95%信頼区間を示している。-5期から-1期までが処置前、0期から5期が処置後。