ノンテクニカルサマリー

デュアルアテンションモデルを用いたキーワード抽出と技術市場マトリックスによる技術機会の抽出

執筆者 元橋 一之(ファカルティフェロー)/朱 晨(東京大学)
研究プロジェクト イノベーションエコシステムの生成プロセスに関する研究
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

イノベーションプログラム(第五期:2020〜2023年度)
「イノベーションエコシステムの生成プロセスに関する研究」プロジェクト

イノベーションにおける技術機会を抽出するためには、技術進化と市場開発の関係を把握するための手法を開発することが重要である。従来より技術と市場の関係については、技術・産業マトリックスを用いて行われてきたが、この手法における市場情報は既存の産業分類による制約を受け、特に新たなカテゴリーの市場開発等の分析には適用が困難であるという欠点があった。従って、本稿においてはテキストマイニングによって、市場情報をキーワードレベルで特定して、技術機会を抽出するために新しい手法を開発した。

この手法は、①デュアルアテンションモデルによって企業ごとに特許技術に対応したビジネス(市場)に関するキーワードを抽出、②市場キーワードと特許文書(技術情報)の対応関係から両者のコンコーダンスマトリックスの作成、③当該情報を用いた新しい技術や市場機会の抽出の3ステップとなる(下図参照)。

図

同手法の活用事例として、本稿においては、自動車産業、エレクトロニクス産業、製薬産業の3業種に属する大企業について、今後伸ばすべき市場領域と技術領域の抽出を行った。その結果、例えば、自動車企業においては、新たな市場領域として車体コントロール技術を用いた自動運転化、新たな技術領域として新しい材料開発等の分野が抽出された。それぞれの産業における技術・市場機会の抽出結果は妥当なものであり、今回提案する手法の有用性を示している。

なお、本手法は、デュアルアテンションモデルのインプットとアウトプット、コンコーダンスマトリックス作成のための対象企業、技術・市場機会抽出のための対象産業(企業)を適切に選択することによって多様な用途に活用可能である。例えば、デュアルアテンションモデルに特定分野の特許を用い(例えばAI関連特許)、コンコーダンスの作成にシリコンバレーにおけるベンチャー企業の情報を入れることで、特定技術(例えばAI)の先端活用事例の抽出が可能である。また、日米中3か国の企業情報を用いたコンコーダンス分析によって、3か国の技術とイノベーション(市場化)の比較を行うことができ、経済安全保障の観点から日本として守るべき技術(特定重要技術)の検討資料として活用することも可能であろう。