ノンテクニカルサマリー

既婚女性の労働参加:日本人と外国人の比較分析

執筆者 劉 洋(研究員)/萩原 里紗(明海大学)
研究プロジェクト 人手不足社会における外国人雇用と技術革新に関する課題の実証研究
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

人的資本プログラム(第五期:2020〜2023年度)
「人手不足社会における外国人雇用と技術革新に関する課題の実証研究」プロジェクト

本研究は、日本に在住する日本人と外国人を比較することにより、居住先の経済・社会的な環境要因を排除した上で、個人における経済要因と集団(国籍)における文化要因が、既婚女性の労働参加に与える影響について実証的なエビデンスを示す。

日本では、これまで女性の労働市場での活躍を制約する要因として、男女格差、長時間労働、税制度など、就労に関する経済・社会環境が主な要因と指摘されてきた。しかし、先行研究では、就労環境の改善が必ずしも女性活躍の実現に効果を発揮していないことが指摘されている。一方、本研究の分析結果によれば、日本に長期滞在した既婚の外国人女性は、日本人と同じような経済・社会環境に直面するにも関わらず、労働参加確率が日本人女性より高い傾向にある。このように、同じ日本という経済・社会環境下に身を置きながら、日本人と外国人で労働参加確率は異なる。本研究では、従来着目されてきた経済・社会環境という要因以外にも、日本における女性就労を規定する要因が存在すると考える。

本研究では、女性就労を規定する要因として、新たに「文化」(culture)に着目して分析を行う。近年、「文化」(「社会的・地理的に異なる集団の中にある好みや信念の系統的な違い」と定義(Fernández and Fogli 2009))が経済的成果に与える影響に関する研究が進められてきた。なお、本研究では、「文化」を「集団における社会的な価値観」と解して分析を行う。本研究が分析に用いるデータは、2010年の『国勢調査』の個票データと『世界価値観調査(World Values Survey:WVS)』である。文化の代理変数としてWVSの“Being a housewife is just as fulfilling as working for pay(専業主婦は就業と同じように個人の自己実現ができる)”という質問項目を用いた。

本研究の分析結果からは、日本人既婚女性より長期滞在の外国人既婚女性のほうが労働に参加する確率が高いことが明らかとなった。また、表1に示したように、既婚女性が労働に参加する確率に対して、文化、女性本人の教育レベル、夫の教育レベルと職歴が有意な影響を与えることが明らかとなった。なお、文化と女性本人の学歴(大卒以上)の影響は、既婚女性の労働に参加する確率をそれぞれ−4.9パーセントポイント(注1)(専業主婦に対する価値観が高いほど労働参加確率が低下)、+5.1パーセントポイント(大卒以上の高い学歴を有すると労働参加確率が上昇)であり、両者の大きさは近いことがわかった。その他、公共住宅居住、子どもや高齢者との同居、居住地域の人口規模、持ち家についても、有意な結果を得た。最後に、追加分析として本研究のモデルの説明力を確認するために要因分解を行ったところ、日本に長期滞在した外国人と日本人の既婚女性の労働に参加する確率の差の93.6%を説明できることを確認した。そのうち、文化要因は25.8%、女性の教育水準は21.1%、夫の教育水準は23.6%を説明している。

以上より、日本に長期滞在した外国人女性の労働参加確率が日本人女性より高いことから、外国人の受け入れは労働力不足対策に有効であると考えられる。一方、来日から数年(本研究では来日5年未満のサンプルを使用)に限っては労働参加確率が低いという結果は、来日初期に労働市場の適応や情報不足による原因が考えられるため、彼らに対して就職支援を行うことが必要である。また、女性就労促進については、「女性活躍」政策や、『女性版骨太方針2022』にあるような、「女性の経済的自立」、「男性の家庭・地域社会における活躍」に関する女性の労働市場参加を評価する社会的価値観を普及することが、女性就労の促進につながると期待する。

表1 日本人と在日外国人における既婚女性の労働参加に影響を与える要因
表1 日本人と在日外国人における既婚女性の労働参加に影響を与える要因
注:上段の値は限界効果、括弧内は標準偏差を示す。***は1%水準有意、**は5%水準有意、*は10%水準有意を示す。
脚注
  1. ^ 表1に基づき計算すると、専業主婦に対する価値観が1つの標準偏差サイズ(0.34)上昇すると、女性の労働に参加する確率が4.9パーセントポイント低下する(文化の標準偏差はWVSより計算した国レベルの値)。