ノンテクニカルサマリー

共同出資、金融制約、FDI

執筆者 伊藤 匡(学習院大学)/Michael RYAN(Western Michigan University)/田中 鮎夢(リサーチアソシエイト)
研究プロジェクト 直接投資の効果と阻害要因、および政策変化の影響に関する研究
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

貿易投資プログラム(第五期:2020〜2023年度)
「直接投資の効果と阻害要因、および政策変化の影響に関する研究」プロジェクト

1. はじめに

Helpman et al. (2004) のような標準的な外国直接投資理論では、完全所有の海外子会社を想定しているが、実際には、部分所有の海外子会社が相当数存在することが分かっている。親会社の海外子会社出資比率のばらつきはかなり大きい。ホスト国における親会社の海外子会社に対する出資比率を決定する要因は何か。– この問題については、一連の研究(Raff et al.2009; Ito and Tanaka 2022他)により、親企業の生産性がホスト国における海外子会社の出資比率を決定する重要な要因であることが明らかにされた。本研究の目的は、親会社の金融制約が海外子会社の所有構造に及ぼす影響という、これまで未解明であった観点につき分析することである。

2. データ

外国直接投資に対する金融制約は、親会社(多国籍企業)とその貸し手(銀行)の両方の要因からもたらされる可能性がある。我々は、その双方に注目し、1989–2016 年の日本企業の外国直接投資の意思決定について研究した。海外子会社の所有構造に注目し、金融制約がこれらの意思決定に果たす役割を検証した。 親企業側では、企業の生産性と負債比率を調べ、これらがともに海外子会社の所有構造に影響を与えることを明らかにした。 次に、多国籍企業の親会社と銀行の関係に注目し、様々な分析手法を用いて、銀行による主要株主としての親会社所有が同親会社の海外子会社の所有構造にどのような影響を与えるかも検証している。

外国直接投資のデータについては、 東洋経済新報社の「海外進出企業データ」を用いて、5,182 件の 外国直接投資プロジェクト(1989 年–2016 年、製造業)における日本の親会社の海外子会社に対する所有構造を特定した。また、日本の親会社の生産性や負債比率などの情報は、日本政策投資銀行のデータ「企業財務データバンク」から算出した。これら二つのデータを接合した分析用のデータは、1989–2016 年の間の上場製造業企業による 3,747 件の 製造業外国直接投資プロジェクトを含むものとなった。

3. 分析結果

データの分析からは、海外子会社保有比率と親会社の負債比率は、確かに負の相関を持つことが確認された(図1)。また、標準的な理論が予測するように、親会社の生産性が高いほど、海外子会社への出資比率が高くなる傾向を確認した。さらに、一般に、多国籍企業の親会社への銀行出資比率が高いほど、同親会社の海外子会社出資比率が低く、共同出資の可能性が高くなることがわかった。しかし、主要株主である銀行自身がすでに子会社や支店を展開しているホスト国への投資の場合は、通常、親会社の海外子会社への出資比率が高くなる傾向が見られる。これは、当該銀行の海外支店が現地の情報を持つことによって現地市場における各種コストや不確実性を減少させ、外国直接投資の固定費削減の役割を果たすとともに、企業と銀行の間の情報の非対称性が緩和され、より出資比率の高い子会社を設立できる可能性が高くなっているためであると推察する。

図1. 海外子会社への出資比率に対する親企業属性の限界効果
図1. 海外子会社への出資比率に対する親企業属性の限界効果
注)論文Table 11の(1)の推定結果から限界効果を算出したものであり、各説明変数(銀行の海外子会社数、銀行が多国籍企業の親会社の最大株主であるか否かに関するダミー変数、多国籍企業の親会社の負債比率、多国籍企業の親会社の全要素生産性)の詳細は論文を参照されたい。棒グラフの横軸の長さは、海外子会社への出資比率に対して各説明変数が及ぼす限界効果の推定値を表示している。また、棒グラフから突き出た線は、限界効果の95%信頼区間を表している。親会社の全要素生産性が海外子会社への出資比率に対して与える限界効果は正であること、親会社の負債比率が海外子会社への出資比率に対して与える限界効果は負であることがわかる。また、銀行が多国籍企業の親会社の最大株主であると海外子会社への出資比率が下がる傾向にある一方で、進出先の国に銀行が海外子会社を持つ場合は海外子会社への出資比率が上がる傾向にあることがわかる。

4. 政策含意

我々の分析結果は、政府が銀行の外国直接投資を支援することで、製造業の親会社の外国直接投資を間接的に支援できる可能性を示唆している。銀行の外国直接投資を支援することで、銀行は企業に対してより多くのホスト国の情報を提供し、顧客の海外進出を支援する役割を果たす。これは、新規投資に伴うリスクを低下させ、製造業企業の外国直接投資をより容易にし、持株銀行にとってもより望ましいものとなる。

引用文献
  • Helpman, E., Melitz, M. J., and Yeaple, S. R. (2004). Export versus FDI with heterogeneous firms. American Economic Review, 94(1):300–316.
  • Ito, T. and Tanaka, A. (2022). FDI, ownership structure, and productivity. Japan and the World Economy, 64.
  • Raff, H., Ryan, M., and Stähler, F. (2009). Whole vs. shared ownership of foreign affiliates. International Journal of Industrial Organization, 27(5):572–581