ノンテクニカルサマリー

知識の組み合わせと研究開発:国際的に見た日本企業のパフォーマンス

執筆者 長岡 貞男(ファカルティフェロー)/塚田 尚稔(リサーチアソシエイト)/遠藤 志久真
研究プロジェクト イノベーション能力の構築とインセンティブ設計:マイクロデータからの証拠
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

イノベーションプログラム(第五期:2020〜2023年度)
「イノベーション能力の構築とインセンティブ設計:マイクロデータからの証拠」プロジェクト

本稿では、日本企業の研究開発パフォーマンスを、外部の知識を広くかつ早期に研究開発に活用出来る能力に着目をして研究を行った。研究開発投資が世界的に拡大し、また研究開発競争の世界的な強まりの中で、こうした能力の重要性は高まっていると考えられる。分析の対象を、日米両国に出願されている発明(Twin特許)とすることで、日米の二つの市場で日米企業の研究開発のパフォーマンスを分析するとともに、同じ発明群が日本の技術市場と米国の技術市場においてどのように評価されているかも分析した。評価指標は、日本特許と米国特許それぞれからの相対被引用度である。

以下の図に示すように、発明への外部知識の組み合わせの広さと早さは、発明のパフォーマンスに大きな影響を与える。先行技術から新規の発明へのラグが短いこと、そして外国発明者の発明が認識され活用された場合に、発明のパフォーマンス(相対被引用度)は日米で有意に高い。また、発明がサイエンスを活用する程度が高いことが、日米で発明の高い評価をもたらす。当該発明が依拠した科学論文数が多いことのみではなく、当該発明の先行技術となった発明が科学論文を多く依拠している(科学集約的な発明に依拠している)ほど、またサイエンスが依拠するサイエンスの分野(領域分野)が多様であるほど、発明のパフォーマンスは高い。こうしたサイエンスの組み合わせは、全体として発明者チームの規模と構成の変動より、発明のパフォーマンスへの影響度は大きい。

日米市場での評価を比較すると、米国技術市場の方が発明におけるサイエンスの活用を格段に高く評価している(相対被引用度で約倍の影響)。他方で日本の技術市場は、先行技術の早期の認識と活用(技術文献の先行文献からのラグが小さいこと、また外国発明者の発明活用)をより評価している。こうした結果は、情報通信分野、バイオ医薬、化学分野及び輸送機器分野を含む、10の技術分野それぞれにおいて、成立する。

図 同一発明群の日米の技術市場での評価(相対被引用、推計期間は2000-2015)
図 同一発明群の日米の技術市場での評価(相対被引用、推計期間は2000-2015)

また、日米Twin特許を対象とした分析結果によると、日米いずれの市場でも、米国企業の方が、日本企業と比較して、発明者の規模、サイエンス活用及び外国発明者の発明活用の影響度(活用の頻度×その効果)が大きく、より効果的にこうした知識や資源を活用している。

政策との関連において、日本版バイドール特許の対象となった発明は、知識の組み合わせで高い水準を実現しており、これらの要因と企業固定効果コントロールしても、日本の技術市場でパフォーマンスは高い。しかしながら、博士研究者の拡大、産学連携支出、政府からの受託研究収入の拡大は、サイエンス活用能力拡大への強い効果は見出されなかった。日本版バイドール特許の対象となった発明は比較的成功した政府委託(企業受託)研究プロジェクトの成果であることが、このような特許レベルと企業レベルの差の原因だと考えられる。

以上の結果を踏まえると、日本産業の知識の組み合わせ能力を高める余地は、なお大きいことが示唆される。第一に企業のサイエンス吸収能力の強化であり、拡大しつつある博士人材をより有効に活用して行く必要があると考えられる。第二は、海外の知識と人材を活用する能力の強化であり、海外人材の採用、研究者の国際的な学会への参加、海外の子会社との交流強化などが重要である。海外人材の活用は、より複雑な大型の研究開発に取り組むことを可能とする。政府の研究開発支援策においても、企業のこうした能力を高める観点からのプロジェクトの設計や実施へのインセンティブが重要であり、こうした観点からも先端性、独自性が高い企業研究への支援の拡大が重要だと考えられる。