ノンテクニカルサマリー

スマートシティをめぐる国際標準化―中国の「公衆衛生上の緊急事態に関する国際規格案」から見えるルール形成の現状―

執筆者 内記 香子(名古屋大学)
研究プロジェクト 現代国際通商・投資システムの総合的研究(第V期)
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

貿易投資プログラム(第五期:2020〜2023年度)
「現代国際通商・投資システムの総合的研究(第V期)」プロジェクト

本稿は、2020年8月5日の日本経済新聞に掲載された、スマートシティに関する中国からの国際規格提案の記事をきっかけとして、国際標準化フォーラムにおけるスマートシティをめぐる標準化活動の現状を分析したものである。国際標準化は、国際通商に次のような影響を与える。すなわち、WTOのTBT協定(貿易の技術的障害に関する協定)および政府調達協定により、国際標準化フォーラムにおいて国際規格が策定されている場合、それに基づいた国内政策をとることが求められる。それと同時に国際規格の策定は、自国の企業が関心のある規格が作られた場合は、自国企業が海外でスマートシティ・プロジェクトに参加する際の後押しともなる。つまり、スマートシティに関わる企業は、個々のIT設備・機器だけではなく、モノとサービスをパッケージで「システム」として海外に輸出したいと考えているので、既に国内で開発運用されているシステムに基づいた国際標準化は、相当程度、今後の海外ビジネス展開に影響する。

近年、中国は国際技術標準獲得のために力を入れている。2020年8月5日の日経新聞にもあるように、スマートシティの当該規格案が採択されれば「今後の国内外の都市開発で日本企業が不利になる可能性」があり、さらに「この分野の国際標準を中国が握ると、日米欧の企業には打撃になるほか安全保障にも影響しかねない」という懸念もある(日本経済新聞朝刊5頁、2020年8月5日)。

以上のような点を背景として、本稿は、国際標準化フォーラムだけでなく、他のレジームも含めて、スマートシティに関するルール形成の全体像を捉えることを目的とし、次のような結果を得た。

スマートシティの主要な国際標準化フォーラムは4つ、①ISOの専門委員会(Technical Committee 268: TC 268)、②IECのスマートシティに関するシステム委員会、③ISOとIECの情報技術の合同専門委員会(JTC 1)のスマートシティに関するワーキンググループ11、そして④ITUがある。中国は、スマートシティの国際標準化に関しては、主として③のフォーラムを中心に活動しているが、国際規格案を提出する際は、複数のフォーラムに関連の提案をする戦略をとっていることがわかった。

こうした国際標準化プロセスのほか、ITUやOECDでは、より広い視点から、都市が「スマート化」する際のあるべき方向性を定義づけたり原則化したりする活動が行われている。またG20では、スマートシティをめぐるデータ・ガバナンスに関するルール策定も進んでいる。

図 スマートシティをめぐる国際ルール作りの現状

多くのフォーラムやレジームが関われば、その活動が重複したり、競争的になったりすることも想定され、フォーラムおよびレジーム間の情報交換が必要であろう。今後スマートシティのルール作りの相互関係がどのように展開していくのか、注視していくことが必要である。