ノンテクニカルサマリー

新型コロナ下の在宅勤務の生産性ダイナミクス:企業パネルデータによる分析

執筆者 森川 正之(所長・CRO)
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

その他特別な研究成果(所属プロジェクトなし)

1.趣旨

新型コロナ感染症(以下「新型コロナ」)に伴い、在宅勤務(Working-from-Home: WFH)が急拡大した。WFHの生産性は、新型コロナ下において感染抑止と経済活動のトレードオフを緩和する程度に影響するだけでなく、新型コロナ終息後の働き方にも関わる。

本稿は、日本企業に対して2020年8~9月及び2021年10~12に行った独自の調査に基づき、WFHの実施状況及びその生産性についての観察事実を示すものである。新型コロナ下でのWFHの生産性に関する研究は既にいくつか存在するが、対象国や調査のスタイルによって結論は分かれている。本稿の特徴は、①企業パネルデータを用いることで、新型コロナ下におけるWFHのダイナミクスを明らかにする点、②労働者に対する調査結果(Morikawa, 2021)と比較することにより、WFHをめぐる労使間での共通点や違いを明らかにすることである。

2.結果の要点

(1)WFH実施企業割合、WFHを行う従業者の割合(カバレッジ)、WFHの週当たり平均頻度いずれも2020年春に最初の緊急事態宣言が発出された時期と比べて大幅に低下した。2021年調査によると、WFH実施企業割合は34.5%で、WFH実施企業におけるWFHカバレッジの平均値は21.2%、週当たり頻度の平均値は2.6日である。

(2)WFHの生産性(職場勤務の生産性を100とした評価)の平均値は、この1年半に数%ポイント上昇した。①WFHを継続している企業における学習効果や業務再配分を通じた生産性上昇、②WFHの生産性が低かった企業のWFHからの退出(職場勤務への回帰)が、平均値に上昇にプラス寄与している。しかし、平均的には、依然として職場での生産性と比べて20%以上低い数字である(表1参照)。

表1.在宅勤務の生産性の変化
表1.在宅勤務の生産性の変化
(注)WFHの生産性((1)列)は職場での生産性を100とした企業の主観的評価の平均値。WFH>職場、WFH=職場、WFH<職場(構成比)は、WFHと職場の生産性の大小関係毎の企業数割合。

(3)新型コロナが長期化する中、WFH従業者への費用補助制度の導入、オフィス面積の縮小を行った企業が増えている。また、2021年調査によると、30%強の企業が通勤手当制度の見直しを行っていた。

(4)新型コロナ終息後はWFHをやめて従来の働き方に戻すことを考えている企業が約50%、WFHの対象者数や日数を削減するという企業が約30%を占めており、将来のWFHに対する企業の考え方と労働者の希望の間には大きなギャップがある(図1参照)。生産性と賃金の均衡、補償賃金の観点からは、WFH労働者の相対賃金の調整が起きることが予想されるが、WFHを行う個々の労働者の生産性を捕捉するのは困難な場合が多いため、新型コロナ終息後のWFHをめぐって労使間でコンフリクトがありうることを示唆している。

図1.新型コロナ終息後の在宅勤務
図1.新型コロナ終息後の在宅勤務
(注)企業は2021年10~12月、労働者は2021年7月に実施した調査の数字。
参照文献