ノンテクニカルサマリー

なぜ参議院の方が女性議員比率が高いのか

執筆者 粕谷 祐子(慶応義塾大学)/三輪 洋文(学習院大学)/尾野 嘉邦(ファカルティフェロー)
研究プロジェクト 先端技術と民主主義:技術の進展と人間社会の共生を目指して
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

融合領域プログラム(第五期:2020〜2023年度)
「先端技術と民主主義:技術の進展と人間社会の共生を目指して」プロジェクト

女性議員を増やすためにクオータ制を導入する国が増えているが、クオータ制を導入せず直接選挙を行っている二院制の国では、両院の女性議員比率に大きな格差があることが多い。日本もその例外ではない。日本の国会では、参議院の女性議員比率は23.1%で、衆議院の9.7%の約2倍である。両院の議員はよく似た選挙制度のもとで有権者から直接選ばれているにもかかわらず、このような格差が存在している。さらに、同様の格差は、女性参政権が導入された第二次世界大戦以降、ずっと一貫している。

図1 女性議員比率の歴史的推移(点線が参院、直線が衆院を示す)
図1 女性議員比率の歴史的推移(点線が参院、直線が衆院を示す)

なぜ両院間で女性議員比率にこれほどの格差があるのだろうか。本研究では、有権者側(需要側)と候補者側(供給側)の2つの視点から、サーベイ実験を通じて、この格差の背後にある可能性のあるメカニズムを探る。具体的には、両院を区別する2つの重要な特徴である「権限の大きさ」と「地位の安定性」に着目する。これらの制度的特徴が有権者や候補者のインセンティブに影響を与え、それが両院の男女比の格差につながっていることを検証する。

図2 需要サイドの実験結果:各条件での女性候補者と男性候補者に対する好感度の差の平均値
図2 需要サイドの実験結果:各条件での女性候補者と男性候補者に対する好感度の差の平均値
図3 供給サイドの実験結果:各条件での参院選への立候補意欲の平均値
図3 供給サイドの実験結果:各条件での参院選への立候補意欲の平均値

需要サイドの実験では、回答者に様々な属性をもつ架空の衆院選ないし参院選の候補者を示して、議員としてどの程度好ましいかを評価させた。その際、無作為に選ばれた半数の回答者には、参議院の役割は従属的であるという情報を与えた。その結果、参議院の従属的な役割について知らされた回答者は、参院選においてのみ、女性候補をより支持するようになる傾向がみられた(図2のHoC candidates w/ primingの行)。

供給サイドの実験では、選挙の種類(衆参)、各院の権限に関する情報を与えるか否か、各院の任期に関する情報を与えるか否かによって、回答者を無作為に8つのグループに分けて、選挙への立候補意欲を尋ねた。(先行研究で一般的にリスク回避的であることが多いとされる)女性回答者は、参議院での任期の安定について知らされると、より積極的に立候補しようとした(図3のControlとTenureの白抜き点の比較)。他方、(先行研究で一般的に権力追求的であることが多いとされる)男性回答者は、参議院では首相を選ぶ権限が限られていることを知らされると、より立候補に消極的になった(図3のControlとPowerの黒点の比較)。このような傾向は衆院選への立候補意欲に関してはみられなかった。

これらの結果は、人々の女性候補に対する態度や出馬意欲が、権限や任期の長さといった議院制度についてのプライミングに条件づけられており、そうした制度の違いが両院の間で女性議員比率に大きな格差を生じさせていることを示唆している。